パート2:分野別優先課題 パンデミック下での「行動の10年」
重点となる政策提言 (重点政策)
地方自治体におけるローカル指標の策定推進
地方地方自治体が取り組むべきアクションの一つの柱として「ローカル指標の策定」と「指標及びその進捗の可視化による参加の促進」を打ち出してください。地域の担い手が減少する中で、地域の持続可能性を測るローカル指標を参加型で策定し、その指標と進捗度合いを広く市民が共有できるよう可視化することにより参加とパートナーシップを促進することが重要です。地域の幸福実感を高め次世代に繋ぐコミュニティを醸成するための市民によるローカル指標の策定と可視化は地域社会への参加意欲の向上に有効であり、また、ターゲット16.6や16.7の達成に直接つながります。そのために必要な人材や予算の確保が望まれます。
いかなる障害のある人にとっても、障害のない人と同じように物理的環境、輸送機関、情報通信、並びに公共スペース及びサービスへのアクセスができるバリアフリーなまちづくりの加速化
全国の鉄道の駅のバリアフリー化はいまだ45.7%であり、特に地方はバリアフリー整備が大きく遅れています。鉄道駅でのホームドアや音響式信号機の設置、空港のアクセスバス・長距離バスへのリフト付きバス導入など、指標11.2.1で達成を目指す公共交通機関へのアクセスを増大させる取り組みが必要です。加えて、アクセシブルな物品、製品、サービスの開発・普及を図るために、アクセシビリティ要件を定めた公共調達の法制度の整備や、行政・事業者等あらゆる関係者にアクセシビリティに関する職員研修受講を義務付けるなど、障害者の移動の権利と情報へのアクセシビリティ権利を保障するためのバリアフリーなまちづくりの加速化が必要です。
最低賃金額の抜本的な引き上げと不法な長時間労働の捕捉・規制
日本の法定最低賃金額は先進国中最低に近く、その賃金額でさえ守られていない企業も多く存在しています。厚生労働省の「賃金センサス」及び「就業構造基本調査」から推計すると、2009年度の調査で、最低賃金以下で働かされている雇用者が全労働者の2.6%(132万人)いるといわれています。法定最低賃金額の引き上げは下落が続いている実質賃金額全体の上昇にもつながるとともに、労働者の生活水準をあげ「誰一人取り残さない」という目標の達成に貢献します。政府も企業の高い内部留保率を批判していますが、法定最低賃金額を引き上げることで経済の好循環が期待できます。
ボトムアップの地域活性化のためのマルチ・ステークホルダー・パートナーシップの推進
地域代表として政府の審議会に参加している委員などの多くは地方の経済界の代表や有識者などであり、地域で様々な課題に実際に取り組んでいる市民社会の団体などの代表者はメンバーに入っていないことが多いです。地域の活性化に関する審議会など政策決定に影響のある委員会や機関などには、地域の社会福祉協議会の代表やNPO・住民団体の代表、協同組合の代表など、市民社会団体の代表者が必ず入るようにしてください。また、政府や地方自治体の審議会等に関して委員は性の多様性に配慮した人選・割合にしてください。
脱炭素化ビジネスへの速やかな移行
持続可能な社会への転換に資するビジネス・雇用の創出のため、現在のエネルギー多消費産業構造から、脱炭素化ビジネス(再生可能エネルギー・省エネルギー関連産業)への転換を軸に、地域・コミュニティ主導で地域の活性化を図り、公正な労働の移行ができるよう政策を推し進めてください。
地域における公共交通や移動販売などの生活インフラの維持と移動の自由の維持
日本の公共交通は公共と銘打たれながらも民間企業によって支えられています。今回の新型コロナウイルス感染拡大防止のための自粛要請で、バスやタクシーなどの公共交通の利用が減少し、その経営は危機的な状況となっています。公共交通が途絶えるとその手段しか移動手段がない地域は移動の自由を奪われることになります。その維持には行政の支援が必要です。また、近隣に買い物のできる場所がない地域においては、自家用車や免許を持たない方にとっては公共交通または移動販売が唯一の買い物手段となります。インターネットの普及が進んだとはいえ生鮮食品の購入は困難であり、またインターネット販売の利用は通信環境の問題と、高齢者などは技術面でも困難です。こうした生活インフラの維持も民間と協働しながら行政機関で支援する政策を進めてください。
国際的に認められている先住民族の自己決定権を基盤とする諸権利の保障
2007年に国連で採択された「先住民族の権利に関する国連宣言」には、世界各地に存在している先住民族が持つ諸権利とそれらを保障する国家の責任が世界共通の基準としてまとめられています。日本では2008年になってようやく政府がアイヌ民族を先住民族と認め、2019年に制定された「アイヌ施策推進法」において法律の条文にはじめて先住民族と記述されましたが、この法律はアイヌ民族に先住民族の諸権利を保障する内容にはなっていません。また、琉球民族は国際的には日本の先住民族として位置付けられていますが政府はそれをいまだに認めていません。先住民族の声に真摯に耳を傾けその権利を保障することが必要です。
地域の相談員の調整・開拓・創出コスト3割の実現
周辺化された方々を支える仕組みは近年、整備されてきました(生活困窮者自立支援法・ひきこもり対策推進事業・地域福祉相談支援体制構築モデル事業等)。これらの取り組みは、相談から各支援メニューにつなぐフローになっていますが、地域においては相談の仕組みや繋ぎ先のメニューが充分とは言えず開拓や創出する事が必要になっています。これらの従事者が対人援助(相談)以外の、地域でのリソース創出と地域ごとの支援政策を整える事に取り組める為のコストを、各制度に組み入れた設計としてください。
途上国・新興国の農業・食料分野の零細・中小事業振興・起業の支援の重点化
途上国では農村から都市への人口流出が加速しています。これに対して、農村部での農業・食料分野での零細・中小企業の事業振興・起業(MSME)の支援強化が必要です。若者がより積極的に農業分野に従事できるようになることで、食料生産や流通の向上、雇用の改善などを実現することができます。日本企業の進出支援のみならず小農など脆弱な人々に裨益するような途上国自身の産業を育て、それと日本企業との連携を追求することも重要だと考えられます。
「ビジネスと人権に関する行動計画」の推進とフォローアップの実施
2020年10月に政府が発表した「ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)」をあらゆるステークホルダーの参画のもと遂行し、既存のギャップを埋めるための議論を含め、フォローアップを実施してください。また、欧州で活発化する法制化の動きも受け、人権デューディリジェンスの法制化の議論についてもあらゆるステークホルダーの参画のもと進める必要があります。外務省内では、「行動計画」を推進する円卓会議、作業部会メンバーに参画し、経産省におけるサプライチェーンガイドライン検討会でも、意味のあるガイドラインにすべく引き続き取り組むことが求められます。
多様な政策提言 (個別政策)
公共調達における社会責任調達の確立
SDGsの達成に向けてあらゆる公共調達が社会責任調達となるよう包括的な施策を講じる必要があります。政府調達においてもまず政府自らが実践し、そして、補助や交付の形で自治体に託される資金についても同様に社会責任調達を進め、その状況を公開していくことが重要だと考えられます。
脱炭素化ビジネスの育成のための環境整備
省エネ・再エネ関連産業を育成するための市場環境(カーボンプライシング等)や、技術障壁への対応(系統連系強化など)、関連するビジネスへの移行支援が重要です。
STIの導入による倫理的・法的・社会的影響及びその政治的インパクトについての調査・研究の実施
今後10年の科学技術イノベーション(STI)の導入は、個別の直接的メリットとは別に大きな社会的変動を生じさせます。SDGsの「持続可能性」及び「貧困・格差の解消」におけるSTIの正負の影響について調査し、各方面でどのような政策が必要なのか学際的な検討が求められます。
公的資金を投入するSTIに関する透明性と説明責任の確保
STIの優先分野、開発内容、開発理由、開発主体等の情報公開、及びその決定過程における多様なセクターの対等な関与を保障する仕組みが重要です。
STI導入の負の側面を克服し、新たな社会に移行する具体的方策の検討・策定と導入
STI導入の負の側面として懸念されている大量失業、格差の拡大、再生不能資源の消費の拡大、人間疎外などについては、(1)教育・雇用・包摂、(2)希少金属のリサイクルの徹底、(3)再生可能エネルギーの効率性の飛躍的拡大等の技術イノベーション、(4)人々が自らの問題を発見し、主体的に取り組み、解決できるような地域・社会的コミュニティの形成や社会参画の拡大、など、とりうる政策的手段を総動員したSTI時代の「新しい社会」への平和的移行が必要です。NGO/NPOや協同組合、労働組合、宗教団体等、社会セクターと政府・企業等との連携の最大限の強化が求められます。
企業によるSDGsへのインパクトの増進及び本質的な取り組み促進への主導的な役割の強化
「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」策定を受けて、人権方針、サステナブル調達などが個社のマーケティング要素や企業のSDGsへの取組みなどという限定的な枠を超え、企業活動の基盤として定着させることが必要です。先行企業が不利益を被らない公平な競争条件(level playing field)の構築も求められます。業界によっては各社取り組む課題の根本原因が各社で重複している場合も多く、個社の取り組みを超え、政府も巻き込んだ形でのより大きなインパクトを生み出すことのできる業界全体によるアプローチが必要です。官・民・市民社会の協働の場とした枠組み設定を求めます。
食料主権に基づく小農支援と地域の活性化
2019年に始まった「国連家族農業の10年」及び「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言」を支持し、国内外を問わず、地域の人びとが何をどのように作るかを決定し、そのための土地と手段を維持し、それらを後世に引き継ぐ権利の保障とその実践を通した地域の活性化が重要です。
一方向的な経済成長から「最適な経済規模」への移行
経済発展の目標を最適な経済規模(Optimal Scale of Economy)にシフトし、各国、各地域の実情に合わせたきめ細かな目標を尊重し、経済活動の質の転換と地域資源の循環を作り出す活動を促進してください。
非正規公務員のディーセントワークの実現
地方の公共サービス安定化や包摂的な地域づくりのため、地方公務員の3人に1人という非正規公務員の格差是正が重要です。
自然資本勘定の導入による地方創生施策の展開
自然資本の財務的な価値を明らかにし地域の価値を再定義する政策を全国的に導入することが重要です。
STEM教育の推進を通じた既存のデジタルリテラシーの格差縮小
遅れている中高年女性のデジタルリテラシーを向上できるよう環境を整えてください。
途上国での適正技術(中間技術)の導入に関する二国間・多国間援助での支援
「最新技術」にこだわらず、地域のニーズに基づいた「中間技術」や「適正技術」の導入を支援するイニシアティブを形成してください。
政府の優先課題に対応する、市民社会の優先課題
① みんなの人権が尊重され、貧困・格差のない、誰一人取り残さない社会
年齢、障害、先住性、国籍・民族、雇用形態など
大切にしたい視点
② ジェンダー平等が実現された社会
ジェンダー、性的指向・性自認など
大切にしたい視点
③ すべての世代のすべての人の健康と福祉の実現
高齢化、経済状況、障害、国籍・民族、情報、保健医療アクセス、社会的・環境的要因など
大切にしたい視点
④ 持続可能な経済・社会・地域の実現
少子高齢化、第1次産業、バリアフリー・ユニバーサルアクセス、零細・中小企業、科学技術の倫理・法・社会的側面など
大切にしたい視点
⑤ 災害の防止と被害の軽減、生活に必要なインフラの確保
災害に対する脆弱性、人権、スフィア基準など
大切にしたい視点
⑥ 省エネ強化、再生可能エネルギーへの転換・気候変動への取組・循環型社会の実現
気候変動、脱炭素社会、エネルギー転換など
大切にしたい視点
⑦ 生物多様性・森林・海洋等の環境の保全
将来世代、国内や途上国の脆弱層 / 貧困層など
大切にしたい視点
⑧ 平和・参加型民主主義、透明性と責任・司法アクセス
グッド・ガバナンス、参加型意思決定、市民意識の醸成など
大切にしたい視点
⑨ あらゆる人・セクターのパートナーシップによるSDGs達成
市民社会、「もっとも遠くにある人を第一に」など
大切にしたい視点