パート2:分野別優先課題 パンデミック下での「行動の10年」
重点となる政策提言 (重点政策)
パリ協定に基づく「脱炭素社会」の実現
⽇本は、2030年に46%削減(2013年度⽐)、2050 年ネットゼロのGHG排出削減⽬標を掲げているが、その実施のための道筋は⼗分に描けていません。パリ協定では今世紀後半にGHGの排出「実質ゼロ」を合意しましたが、日本を含めた各国の⾏動は現在全く⾜りないと指摘されています。これを締結した⽇本は、さらなる⾏動強化のため、パリ協定と整合的に実施を進めていくプロセスを国内で導⼊し、脱炭素化のための省エネ・再エネ・燃料転換さらにあらゆる部⾨での対策を強化する必要があります。
自然エネルギー100%推進と、途上国脆弱層を含むエネルギーアクセス・気候変動適応策の確保
気候変動による被害を防ぐには化石燃料の割合を段階的に減らし厳格な環境影響評価を受けた自然エネルギー割合を100%に向け増加させていく必要があります。ただし、それに伴う課題(貧困層の生活・雇用への悪影響や生態系への悪影響の回避等)解決も必要で、自然エネルギーへのシフトに加えて省エネルギーに着実に取り組んでいく必要があります。また、自然環境を保護・再生することでGHGを吸収するNature-based solutionsの拡大により、GHG排出の実質ゼロに取り組むことが必要です。一方で、途上国等ではそもそもエネルギーへのアクセス自体ない人々も多く、誰も取り残さない観点から、あらゆる人々の安全・安定的なエネルギーアクセス確保のための支援が必要です。不確実な部分も残されていますが、国内外での異常気象による被害の頻発が地球温暖化の進行と深く関連しているとの認識は広がりつつあり、これらの被害に最も弱い国内外脆弱層・貧困層を含む適応策のさらなる推進・支援が必要です。
使い捨てプラスチックの使用禁止と化石資源への依存を減らし、プラスチックごみ激減の実現
国内では年約900万トンのプラスチックごみが排出されており、そのうち約400万ト ンが包装容器やペットボトル、レジ袋といった使い捨てプラスチックです。家庭などから出る一般廃棄物の比率が約8割を占めるといわれています。プラスチックはリサイクル損ともいわれ、そもそも回数的にも永続的にリサイクルできるものではありません。海洋汚染や生物多様性の喪失に大きな影響を与えているプラスチックごみをとにかく減らすことが急務であり、使い捨てプラスチックの使用禁止、プラ袋の一律有料化の徹底などのビジョンと施策が必要です。
気候変動対策のための透明性/見える化向上・あらゆる資金の更なる有効活用
途上国は必ずしもHFC等の報告義務がない等、GHGの現状把握が難しいことも大きな課題です。効果的な世界の気候変動対策推進にはGHGの現状把握・透明性の向上が不可欠であり、GHG排出量のインベントリ・統計整備を含む途上国の体制整備・能力開発等の支援強化が必要です。気候変動に対処するための資金は不足しています。日本を含む先進国は途上国の対策への資金支援を行う約束・責務を有します。日本政府は二国間協力に加え、国際機関(緑の気候基金〈GCF〉、アジア開発銀行〈ADB〉等)に資金を拠出しており、貧困層/脆弱層の適応策等強化のためそれらの機能向上を要請しつつ、更なる連携・有効活用も含めた戦略立てを期待します。また、ESG投資・グリーンボンドの推進・支援強化(エネルギー起源CO2対策に加え、適応対策・その他GHG対策を含む)も必要です。ただし民間投資・企業取組は利益を全く考えないわけにはいかず、日本政府は貧困層/脆弱層の適応策等推進のため、NGOとの連携を強化してください。
国内外におけるフロン・メタン等のCO2以外の温室効果ガス削減対策の強化
気候変動による被害を防ぐには、できるだけ多くの温室効果ガス(GHG)を世界全体で迅速かつ効率的に削減する必要があります。世界全体のGHG排出量の約3割がエネルギー起源CO2以外のGHGが占めます。メタンは世界の排出量の15%以上を占めます。フロン類は、温室効果が同量のCO2の数百~数万倍もあります。CO2以外のGHGの途上国での削減はコストがそれほど高くないとの試算もありますが、コストが高いとの先入観もあります。気候変動枠組み条約(UNFCCC)ではフロン類のうちハイドロフルオロカーボン(HFC)が扱われるため、モントリオール議定書対象フロンであるクロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)対策が注目されないことも課題です。よって、コスト計算も含む研究を進めつつ、フロン・メタン等の他のGHGの国内外対策支援の強化も急務です。
自然生態系の機能を活用した、温室効果ガスの排出削減の推進
途上国の熱帯雨林やマングローブ等の自然生態系は、多くの炭素を貯留しています。これらの生態系を保全・回復することで、世界の気温上昇を2度未満に抑えるために必要な温室効果ガスの排出削減の30%が達成できますが、途上国への気候変動対策資金のうち2%しかこの分野に配分されておらず、ポテンシャルに見合った排出削減がされていません。日本政府には、途上国の自然生態系の保全により多くの資金を配分することを求めます。この分野への資金量を増やすためには市場メカニズムの活用も有効です。
多様な政策提言 (個別政策)
「低脱炭素発展開発長期戦略」の策定・定期的な改定
2050年までの脱炭素化を目指すための戦略・計画を策定し、法定化する。
パリ協定の1.5℃目標に沿うよう温室効果ガス排出削減目標の引き上げ
パリ協定とCOP26グラスゴー会議の合意は、工業化前からの地球平均気温上昇を1.5℃未満に抑制することを追求しているが、各国の目標を足し合わせてもそれが実現できる目処は立っていません。日本政府も2030年までの排出削減目標を引き上げて国連に再提出することが必要です。
パワーシフトの推進
一般家庭、事業所・施設、自治体等が、契約先電力会社を選択する際にCO2や大気汚染、核廃棄物などの環境負荷の低い電力供給を行う小売業者を選ぶよう促すことが求められます。自治体、国公立の教育機関・研究機関・公共施設等では、こうした電力調達方針をもつことを法律で義務付けるべきです。民間企業、一般家庭についても環境負荷の低い電力会社を選ぶ努力義務を法律に盛り込むべきです。
ベースロード電源から柔軟な電源への発想の転換
原発・石炭といったベースロード電源を基本とする方針から、省エネルギーを徹底し再生可能エネルギーを主軸とする柔軟な電力管理システムを基本とする方針へ転換する必要があります。
開発協力における「女性とエネルギー」支援の主流化
都市、農村貧困層の女性が自ら活用できる再生可能エネルギー等の導入、改良かまどやソーラーなどを活かしたエネルギーの導入、及びこれらをコミュニティで使いこなせるよう支援が必要です。
国内における石炭火力発電所の新増設規制・既設の廃止促進、石炭火力フェーズアウト計画の策定
パリ協定達成には二酸化炭素を排出する[石炭]火力発電は新増設すべきでないという研究があり、最新型でも天然ガス火力発電所の2倍の二酸化炭素を排出する新増設は許容されないとされています。今後の排出削減目標達成・引き上げの足かせになる石炭火力の新増設規制、既設のものも含め脱石炭を進める政策が必要で、石炭火力の2030年までのフェーズアウト計画を策定することが求められます。
カーボン・プライシング施策の導入と強化
日本の温室効果ガス総排出量の9割はエネルギー起源CO2です。炭素(化石燃料)に価格付けを行い、省エネや再エネ導入に経済的インセンティブを付与するカーボン・プライシング施策(炭素税、排出量取引等)を導入・強化すべきです。
自然エネルギー100%宣言の推進
稼働時の環境負荷の低い自然エネルギー100%をめざす動きが広がり、RE100というビジネスのイニシアティブに国内外の企業が参加しています。NGOなどでつくる自然エネルギー100%プラットフォームには企業や自治体、大学などが100%宣言を登録しています。日本でこの動きを広げるべきです。
途上国における火力発電所(特に石炭)の新増設支援の中止
途上国への火力発電インフラ輸出は膨大なCO2排出や環境汚染が懸念されます。日本政府は火力発電インフラ輸出政策を撤回し、JBIC、JICA、NEXIによる支援をただちに中止すべきです。
政府の優先課題に対応する、市民社会の優先課題
① みんなの人権が尊重され、貧困・格差のない、誰一人取り残さない社会
年齢、障害、先住性、国籍・民族、雇用形態など
大切にしたい視点
② ジェンダー平等が実現された社会
ジェンダー、性的指向・性自認など
大切にしたい視点
③ すべての世代のすべての人の健康と福祉の実現
高齢化、経済状況、障害、国籍・民族、情報、保健医療アクセス、社会的・環境的要因など
大切にしたい視点
④ 持続可能な経済・社会・地域の実現
少子高齢化、第1次産業、バリアフリー・ユニバーサルアクセス、零細・中小企業、科学技術の倫理・法・社会的側面など
大切にしたい視点
⑤ 災害の防止と被害の軽減、生活に必要なインフラの確保
災害に対する脆弱性、人権、スフィア基準など
大切にしたい視点
⑥ 省エネ強化、再生可能エネルギーへの転換・気候変動への取組・循環型社会の実現
気候変動、脱炭素社会、エネルギー転換など
大切にしたい視点
⑦ 生物多様性・森林・海洋等の環境の保全
将来世代、国内や途上国の脆弱層 / 貧困層など
大切にしたい視点
⑧ 平和・参加型民主主義、透明性と責任・司法アクセス
グッド・ガバナンス、参加型意思決定、市民意識の醸成など
大切にしたい視点
⑨ あらゆる人・セクターのパートナーシップによるSDGs達成
市民社会、「もっとも遠くにある人を第一に」など
大切にしたい視点