はじめに ~SDGsボトムアップ・アクションプラン2022作成にあたって~
国内での 「持続可能な開発目標」(以下、SDGs)の認知度は高まっているものの、いわゆる気候危機、コロナ危機、ウクライナ危機を初めとして国内外の課題が山積し、SDGsの進捗は近年後退しています。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、世界でのワクチンの不均衡な配分と貧困問題の悪化、そして一層の貧富の格差の拡大が明らかになりました。また、2022年2月からはロシアによるウクライナ侵攻が継続されています。これらによって多くの尊い命が多く失われ、難民や避難民が増加し、世界的な食糧危機が差し迫っている一方で、先進国に多い軍事産業は活気を得ています。SDGsの目標16は「平和と公正をすべての人に」であり、またSDGsの重要な要素である「5つのP」のひとつは平和(Peace)です。平和が環境・社会・経済の持続可能性の基盤であり、平和を求めて生きる力、平和に生きる権利がSDGsの導きの答えになるのではないでしょうか。
SDGsが危機を克服するための万能の処方箋ではないにせよ、現在、私たちが手にしている最も包括的な道しるべであることは確かです。私たちは、危機を乗り越える英知を模索する必要があります。
「SDGsボトムアップ・アクションプラン」(以下、BAP)は、日本政府が毎年発表する「SDGsアクションプラン」への日本の市民社会からの応答として、SDGs達成に向けて歩んでいくための政策提言をまとめたものです。パート1ではSDGsの推進に向けた俯瞰的施策について述べ、パート2ではSDGs市民社会ネットワーク(以下、SDGsジャパン)に参加する会員団体からの提言を集めました。
パート2の各提言には関連深いSDGsグローバル指標の番号を記してあります。SDGsの17目標を達成するための具体的な政策/施策を提言します。
<SDGsグローバル指標とは?> 17つのSDGsの達成を測るため全231のグローバル指標が定められており、日本を含むすべての国がこの指標データの公開を求められています。BAPでは、掲載する政策提言が231のどのグローバル指標の達成に貢献するかを表示しています。
「誰一人取り残さない」SDGsを達成するための市民社会からの提言として、ぜひご活用ください。
一般社団法人 SDGs市民社会ネットワーク
パート1:SDGsの全体政策について パンデミック下での「行動の10年」
行政府・立法府への提言
国連「2030アジェンダ」の前文にある「P」から始まる5つの分野を統合した政策/施策が必要です。
地球(Planet)
人間(People)
繁栄(Prosperity)
パートナーシップ(Partnership)
平和(Peace)
※白抜き文字は誰も取り残さないためのキーワード
地球(Planet)
我々は、地球が現在及び将来の世代の需要を支えることができるように、持続可能な消費及び生産、天然資源の持続可能な管理並びに気候変動に関する緊急の行動をとることを含めて、地球を破壊から守ることを決意する。
人間(People)
我々は、あらゆる形態及び側面において貧困と飢餓に終止符を打ち、すべての人間が尊厳と平等の下に、そして健康な環境の下に、その持てる潜在能力を発揮することができることを確保することを決意する。
繁栄(Prosperity)
我々は、すべての人間が豊かで満たされた生活を享受することができること、また、経済的、社会的及び技術的な進歩が自然との調和のうちに生じることを確保することを決意する。
パートナーシップ(Partnership)
我々は、強化された地球規模の連帯の精神に基づき、最も貧しく最も脆弱な人々の必要に特別の焦点をあて、全ての国、全てのステークホルダー及び全ての人の参加を得て、再活性化された「持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップ」を通じてこのアジェンダを実施するに必要とされる手段を動員することを決意する。
平和(Peace)
我々は、恐怖及び暴力から自由であり、平和的、公正かつ包摂的な社会を育んでいくことを決意する。平和なくしては持続可能な開発はあり得ず、持続可能な開発なくして平和もあり得ない。
「文章は2030アジェンダ(外務省仮訳)」より引用
・国会の役割
45. (国会議員、政府、公的機関の役割)我々は、新アジェンダのために必要とされる予算の可決と我々のコミットメントの効果的な実施に関する説明責任を確実なものとするために、国会議員が果たす不可欠な役割についても認識している。また、政府と公共団体は、地方政府、地域組織、国際機関、学究組織、慈善団体、ボランティア団体、その他の団体と密接に実施に取り組む。
国会と政党および議員への提言
SDGsを定めた国連「2030アジェンダ」には、国会と議員の役割について言及があります。
これを踏まえ、SDGsジャパンは国会、政党および議員の皆様へ以下の提言をします。
1) 各政党の政策にSDGs(「2030アジェンダ」)の達成に向けた重点目標と具体的施策を掲げる
多様な分野の個別政策を、SDGsを土台に立案してください。SDGs達成には、国内および国際の経済・社会・環境のすべての側面において、実現可能で質の高い政策/施策の実施が重要です。
2) 国会や地方議会で、経済・社会・環境を統合した公正で包摂的なSDGsの実現に一貫して関与する
法案や既存の法律および条例等がSDGsの達成にどう貢献するのか、その影響の利点と懸念点を含め、経済・社会・環境の全ての視点から政策議論を深めてください。SDGs推進に向けた予算の確保と、中央と地方の政府および国会と地方議会がSDGsに取り組むための法的根拠を求めます。
3) 「誰一人取り残さない」社会の実現に向けて、脆弱な立場に置かれている人々の経験と声が反映され得るプロセスを経て政策/施策を立案し実施する
政策/施策の立案や実施評価および見直しの過程に、当事者を含む市民社会組織も参加できる仕組みが必要です。SDGsの達成には、貧困や格差、差別の解消のための取り組みが欠かせません。
バックキャスティングで課題解決を
~目指す未来から逆算した行動で、世界の相互関連する課題に取り組む~
市民社会と行政府・立法府の新しい関係性
パート2:分野別優先課題 パンデミック下での「行動の10年」
政府の優先課題に対応する、市民社会の優先課題
① みんなの人権が尊重され、貧困・格差のない、誰一人取り残さない社会
年齢、障害、先住性、国籍・民族、雇用形態など
大切にしたい視点
② ジェンダー平等が実現された社会
ジェンダー、性的指向・性自認など
大切にしたい視点
③ すべての世代のすべての人の健康と福祉の実現
高齢化、経済状況、障害、国籍・民族、情報、保健医療アクセス、社会的・環境的要因など
大切にしたい視点
④ 持続可能な経済・社会・地域の実現
少子高齢化、第1次産業、バリアフリー・ユニバーサルアクセス、零細・中小企業、科学技術の倫理・法・社会的側面など
大切にしたい視点
⑤ 災害の防止と被害の軽減、生活に必要なインフラの確保
災害に対する脆弱性、人権、スフィア基準など
大切にしたい視点
⑥ 省エネ強化、再生可能エネルギーへの転換・気候変動への取組・循環型社会の実現
気候変動、脱炭素社会、エネルギー転換など
大切にしたい視点
⑦ 生物多様性・森林・海洋等の環境の保全
将来世代、国内や途上国の脆弱層 / 貧困層など
大切にしたい視点
⑧ 平和・参加型民主主義、透明性と責任・司法アクセス
グッド・ガバナンス、参加型意思決定、市民意識の醸成など
大切にしたい視点
⑨ あらゆる人・セクターのパートナーシップによるSDGs達成
市民社会、「もっとも遠くにある人を第一に」など
大切にしたい視点