目標1のターゲット・実施手段と指標
目標1: 貧困をなくそう
あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
ターゲット
1.1 2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。
指標
1.1.1 国際的な貧困ラインを下回って生活している人口の割合(性別、年齢、雇用形態、地理的ロケーション(都市/地方)別)
ターゲット
1.2 2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、全ての年齢の男性、女性、子どもの割合を少なくとも半減させる。
指標
1.2.1 各国の貧困ラインを下回って生活している人口の割合(性別、年齢別)
1.2.2 各国の定義に基づき、あらゆる次元で貧困ラインを下回って生活している男性、女性及び子どもの割合(全年齢)
ターゲット
1.3 各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する。
指標
1.3.1 社会保障制度によって保護されている人口の割合(性別、子ども、失業者、年配者、障害者、妊婦、新生児、労務災害被害者、貧困層、脆弱層別)
ターゲット
1.4 2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、全ての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を保障される。
指標
1.4.1 基礎的サービスにアクセスできる世帯に住んでいる人口の割合
1.4.2 (a)土地に対し、法律上認められた書類により、安全な所有権を有している全成人の割合(性別、保有の種類別)、(b)土地の権利が安全であると認識している全成人の割合(性別、保有の種類別)
ターゲット
1.5 2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に暴露や脆弱性を軽減する。
指標
1.5.1 10万人当たりの災害による死者数、行方不明者数、直接的負傷者数(指標11.5.1及び13.1.1と同一指標)
1.5.2 グローバルGDPに関する災害による直接的経済損失
1.5.3 仙台防災枠組み2015-2030に沿った国家レベルの防災戦略を採択し実行している国の数(指標11.b.1及び13.1.2と同一指標)
1.5.4 国家防災戦略に沿った地方レベルの防災戦略を採択し実行している地方政府の割合(指標11.b.2及び13.1.3と同一指標)
実施手段
1.a あらゆる次元での貧困を終わらせるための計画や政策を実施するべく、後発開発途上国をはじめとする開発途上国に対して適切かつ予測可能な手段を講じるため、開発協力の強化などを通じて、さまざまな供給源からの相当量の資源の動員を確保する。
指標
1.a.1 政府によって貧困削減計画に直接割り当てられた国内で生み出された資源の割合
1.a.2 総政府支出額に占める、必要不可欠なサービス(教育、健康、及び社会的な保護)への政府支出総額の割合
1.a.3 貧困削減計画に直接割り当てられた助成金及び非譲渡債権の割合(GDP比)
実施手段
1.b 貧困根絶のための行動への投資拡大を支援するため、国、地域及び国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する。
指標
1.b.1 女性、貧困層及び脆弱層グループに重点的に支援を行うセクターへの政府からの周期的な資本投資
解説 - 執筆:大橋正明(聖心女子大学教授/SDGs市民社会ネットワーク共同代表理事)
2000~15年のMDGsと2016~30年のSDGsの両方の一番目の目標はどちらも貧困問題です。21世紀前半の国際社会は貧困が最も重要な課題であると認識し、その早急かつ根本的な解決を目指す決意が示されています。
SDGs目標1「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困を終わらせる」の最近の日本の成績を、ドイツのベルテルスマン財団と持続可能なソリューション・ネットワーク(SDSN)が共同で発表した『持続可能な開発報告書2019』で見ると「緩やかに改善」となっていたので、疑問に感じました。この成績の根拠を同報告書で探ると、僅かに存在する日本国内の絶対的貧困の二つの指数の改善のようなのですが、日本にとってはもっと深刻で大規模な問題である相対的貧困は現状維持となっています(同報告書2019p.249)。
その重要性は否定しませんが、大人の貧困対策の方が根治策に思えてしまいます。
さてSDGsの目標1のターゲット1.1は、2030年までに一日PPP(購買力平価)1.9ドル未満(元は、1.25ドル)の収入しかない、極端な貧困状態の人口の割合を、2015年の7.36億人(総人口の10.0%)から2030年にはゼロにすると宣言しています。この極度の貧困(絶対的貧困)は、サハラ以南アフリカや南アジアで特に深刻な問題です。しかし国連はこれまでの傾向が続くと、2030年の貧困率は6%に留まってしまう、と予想しています(https://unstats.un.org/sdgs/report/2019/goal-01/閲覧日2020年11月19日)。
ですから日本の私たちは、貧しい国での絶対的貧困をなくしていく動きを強くプッシュしたいところです。ところが日本政府の政府開発援助(ODA)の実施機関である国際協力機構(JICA)は、そのSDGsの重点から貧困を除いています。この背景には、2015年2月に政府が定めたODA理念に関する開発協力大綱の重点課題の最初にある「『質の高い成長』とそれを通じた貧困撲滅」という考え方があるようです。つまり経済成長を通じて、貧困に働きかけるというのです。SDGs目標1が、貧困を直接に無くすべきとしていることからは、大きな隔たりがあります。実際最近の日本のODAは、途上国に大口融資で接近する中国に対抗する意味から、途上国の経済インフラ向けの借款を増やす傾向が強く、貧困を含めた社会開発の支援が取り残されがちになっています。これは、2020年に世界的な大問題となった新型コロナウイルス感染症といった伝染病をコントロールするためにも、極めて重要です。
なおSDGsは言及してないのですが、富裕層への大胆な増税、防衛費・軍事費の大幅な削減などを通じて財源を確保しながら、日本や他の政府が国内と世界の貧困問題に積極的に取り組むことが必要ではないでしょうか。
いわゆる先進国で重要な問題なのが、先進国の集まりである経済協力開発機構(OECD)が示す相対的貧困です。世帯一人当たりの等価可処分所得(税金や社会保険料などを差し引いた世帯の手取り所得を世帯員数の平方根で割って算出した金額)が、中央値の半分未満が相対的貧困です。たとえば厚生労働省の2016年7月発表の生活実態調査によると、15年のその中央値は245万円で、この半分の122万円が相対的貧困ラインです。
それ未満の貧困層は、全世帯の15.6%(779.5万世帯)、子どもは13.9%です。特に深刻なのは、母子家庭が多い一人親世帯や、年金だけが頼りの高齢者世帯です。日本の相対的貧困の割合は、先進主要国の中で最も悪い部類です。
日本の最新の相対的貧困率は、2019年に厚生省が実施した生活実態調査の結果として2020年7月頃に発表の予定です。その結果を踏まえないと、ベルテルスマン財団&SDSNの成績が適正かどうか、判断できません。
また相対的貧困率が仮に減少していても、実際の貧困は減少していない、というリスクがあります。なぜなら、ここ何年間にも渡って先に述べた相対的貧困ラインが下降する傾向が続いているからです。ある世帯の一人当たり可処分所得額が2015年に120万円の貧困層で、18年もそのままの所得と仮定した場合、今度発表される貧困ラインが118万円に減少すると、その世帯は同じ所得なのに貧困層ではなくなってしまうのです。これは、この貧困概念が「相対的」であることから生じる限界です。
もう一つの重大な問題は、日本政府は目標1のターゲット1.2「各国の定義によるあらゆる次元の貧困」の「日本政府の定義」を定めていない、という姿勢を保っていることです。先に説明した相対的貧困はOECDの定義で、日本政府のものではないのです。実際、外務省のSDGs Action PlatformというウェブサイトのSDGs指標1.2.1「各国の貧困ラインを下回って生活している人口の割合」も、「現在、提供できるデータはありません」となっています(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/goal1.html、閲覧日2020年1月19日)。これ自体が、日本政府のこの問題への関心の低さを物語っていると言えます。
日本政府のSDGs推進本部がこれまでに二度作成・発表したSDGs実施指針が定める優先8分野に、貧困は含まれておらず、僅かにその①「あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現」の下位目標として、「子供の貧困対策」が言及されているだけです。日本政府は2013年以来、この問題に熱心に取り組んでいます。
*各目標の解説は、2020年3月時点で執筆され、SDGsジャパンで発行した「基本解説そうだったのか。SDGs2020ー「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」から、日本の実施指針までー」に掲載されたものを転載しています。各目標の執筆者の所属、肩書、執筆内容は2020年3月末現在のものとなります。
最新の解説は、2025年9月に発行された「基本解説2025」で見ることができます。基本解説最新版の購入は、SDGsジャパン「資料・Shop」ページをご確認ください。
前文には「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」という理念が掲げられ、すべての国、およびすべてのステークホルダーによるパートナーシップの下、この計画を実行すると宣言されています。世界を持続的かつ強くしなやか(レジリエント)なものに移行されるために、大胆かつ変革的な手段をとることも、前文の中で強調されています。また、2030アジェンダの重要な要素として、「5つのP」、すなわち人間(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、平和(Peace)、パートナーシップ(Partnership)を掲げ、持続可能な開発の三側面である、経済、社会、環境を調和させなければならないと提唱しています。
SDGs各ゴールについて
各ロゴをクリックいただけると、「目標」と「ターゲット」、「指標」の全文およびゴールの解説を読むことができます。
ここに掲載する「目標」と「ターゲット」は、A/70/L.1の外務省による仮訳を、「指標」は第48回国連統計委員会資料(E/CN.3/2017/2)を基に総務省で作成された仮訳(最終更新日2019年8月)をSDGsジャパンが専門的見地から一部修正したものです。
なお、各目標の解説は、2020年3月時点で執筆され、SDGsジャパンで発行した「基本解説そうだったのか。SDGs2020ー「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」から、日本の実施指針までー」に掲載されたものであり、各目標の執筆者の所属、肩書は2020年3月末現在のものとなります。
最新の解説は、2025年9月に発行された「基本解説2025」で見ることができます。基本解説最新版の購入は、SDGsジャパン「資料・Shop」ページをご確認ください。
目標8: 働きがいも経済成長も
包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
目標9: 産業と技術革新の基盤をつくろう
強くしなやか(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
目標15: 陸の豊かさも守ろう
陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
目標17: パートナーシップで目標を達成しよう
持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
解説:一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)