目標11のターゲット・実施手段と指標
目標11: 住み続けられるまちづくりを
包摂的で安全かつ強くしなやか(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
ターゲット
11.1 2030年までに、全ての人々の、適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する。
指標
11.1.1 スラム、インフォーマルな居住地及び不適切な住宅に居住する都市人口の割合
ターゲット
11.2 2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子ども、障害者及び高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、全ての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。
指標
11.2.1 公共交通機関へ容易にアクセスできる人口の割合(性別、年齢、障害者別)
ターゲット
11.3 2030年までに、包摂的かつ持続可能な都市化を促進し、全ての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する。
指標
11.3.1 人口増加率と土地利用率の比率
11.3.2 定期的かつ民主的に運営されている都市計画及び管理に、市民社会が直接参加する仕組みがある都市の割合
ターゲット
11.4 世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する。
指標
11.4.1 全ての文化及び自然遺産の保全、保護及び保存における総支出額(公的部門、民間部門)(遺産のタイプ別(文化、自然、混合、世界遺産に登録されているもの)、政府レベル別(国、地域、地方、市)、支出タイプ別(営業費、投資)、民間資金のタイプ別(寄付、非営利部門、後援))
ターゲット
11.5 2030年までに、貧困層及び脆弱な立場にある人々の保護に焦点をあてながら、水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減し、世界の国内総生産比で直接的経済損失を大幅に減らす。
指標
11.5.1 10万人当たりの災害による死者数、行方不明者数、直接的負傷者数(指標1.5.1 及び13.1.1 と同一指標)
11.5.2 災害によって起こった、グローバルなGDPに関連した直接経済損失、重要インフラへの被害及び基本サービスの途絶件数
ターゲット
11.6 2030年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する。
指標
11.6.1 都市で生み出された固形廃棄物の総量のうち、定期的に収集され適切に最終処理されたものの割合(都市別)
11.6.2 都市部における微粒子物質(例:PM2.5やPM10)の年平均レベル(人口で加重平均したもの)
ターゲット
11.7 2030年までに、女性、子ども、高齢者及び障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する。
指標
11.7.1 各都市部の建物密集区域における公共スペースの割合の平均(性別、年齢、障害者別)
11.7.2 過去12か月における身体的又は性的ハラスメントの犠牲者の割合(性別、年齢、障害状況、発生場所別)
実施手段
11.a 各国・地域規模の開発計画の強化を通じて、経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながりを支援する。
指標
11.a.1 人口予測とリソース需要について取りまとめながら都市及び地域開発計画を実行している都市に住んでいる人口の割合(都市の規模別)
実施手段
11.b 2020 年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組2015-2030に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う。
指標
11.b.1 仙台防災枠組み2015-2030に沿った国家レベルの防災戦略を採択し実行している国の数(指標1.5.3及び13.1.2と同一指標)
11.b.2 国家防災戦略に沿った地方レベルの防災戦略を採択し実行している地方政府の割合(指標1.5.4及び13.1.3と同一指標)
実施手段
11.c 財政的及び技術的な支援などを通じて、後発開発途上国における現地の資材を用いた、持続可能かつ強靱(レジリエント)な建造物の整備を支援する。
指標
11.c.1 現地の資材を用いた、持続可能で強靱(レジリエント)で資源効率的である建造物の建設及び改築に割り当てられた後発開発途上国への財政援助の割合
解説 - 執筆:堀内 葵(防災・減災日本CSO ネットワーク事務局長)
■ 目標の意味
目標11 は人々の居住空間に焦点を当て、安全な住宅や基本的サービスへのアクセスを保障したり、スラムの状況を改善したりすることに加え、災害への対応能力を強化することを目指しています。
■ 4 年間の進捗への全体的な評価
2019年7月に発表された国連事務総長特別報告によれば、世界中でスラム地域に住む人々の数は大幅に減少しましたが、いまだに10億人がそのような状況で暮らしていることや、世界保健機関(WHO)の基準に達しない質の空気を都市居住者の10人のうち9人が吸っていることなどが指摘されています。また、公共交通機関へのアクセスの定義として「自宅から500メートル以内にバス停があることや、1キロメートル以内に電車の駅または船着き場があること」が採用されており、2018年に78か国227都市で行われた調査によれば、これらの公共交通機関へのアクセスは平均で53%であったのに対し、最も低いサブサハラ地域では18%に留まっています。日本でも山間地域を中心に移動困難者の課題が指摘されています。
SDSNが2019年6月に発表した報告書によれば、公共交通機関の満足度が56.4%であることや、可処分所得に占める家賃の割合が4割を超える世帯が16%に上ることなどから、日本における目標11全体の進捗は「顕著な課題がある(Significant challenges)」とされています。
■ 2030 達成に向けて、各ターゲットの進捗の評価
ターゲット11.2にある「脆弱な立場にある人々、女性、子ども、障害者、および高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善」という点は、多様性を認め、相互に支え合う社会の構築につながります。しかし、社会の共通インフラである公共交通機関がそうした人々に「やさしい」設計になっているかどうかは常に確認が必要です。車いす利用者のためのスロープやエレベーターを設置するだけでは不十分なのです。それらが遠く離れた場所にしか設置されていなかったり、常に混みあっていて利用するのに時間がかかってしまい、円滑な移動が妨げられているという状況は望ましくありません。また、様々な事情を抱えて公共交通機関を利用している人々が、その事情を理由に差別されたり、周囲から疎まれてしまっては、安全に公共交通機関を利用できるとは言えません。また、ターゲット11.4では「世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する」とあり、大国間の政治的対立により文化遺産が攻撃の対象にされようとしている事態は、平和・繁栄・環境を目指すSDGsの理念とは相いれないものです。
災害については、ターゲット11.5で定められている通り「水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減」することや「直接的経済損失を大幅に減らす」ことが目指されています。国連防災機関(UNDRR)の「世界災害リスク軽減評価報告書2019」によれば、2018年に自然災害によって強制的に移動を余儀なくされた人々は1,720万人に上り、こうした傾向は収まっていない、とされています。また、災害による死者の多くは中低所得国で発生しており、その多くはアジア太平洋地域とアフリカ地域に集中しています。また、農作物への影響のうち、旱魃によるものが84%に上り、その多くが中低所得国で発生しています。
■ 目標達成に向けて今後最も大事なこと
持続可能な都市や居住空間を実現するためには、スラム地域の環境改善や、電気・ガス・水道・交通・廃棄物処理などの公共サービスの拡充、気候変動への対応や災害の影響を減らすことを含む都市計画の整備が必要不可欠です。目標11 と密接に関係する目標1「貧困をなくそう」や目標6「安全な水とトイレを世界中に」、目標13「気候変動に具体的な対策を」もさることながら、最も重要なのは、目標10「人や国の不平等をなくそう」を世界中で達成することです。目標10のターゲットには「年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく」という文言が含まれており、都市開発や公共サービスの普及には欠かせない視点です。
10億人に上るスラム生活者の状況を改善するためには大規模な投資が必要ですし、それらが一部の地域や都市に偏ってはSDGs 全体の達成にはつながりません。SDGs達成に必要だと言われている年間2.5兆ドルの資金をどのように調達するのか、それらを公平に分配するための政策はどうあるべきか、など、根本的な議論が求められています。
*各目標の解説は、2020年3月時点で執筆され、SDGsジャパンで発行した「基本解説そうだったのか。SDGs2020ー「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」から、日本の実施指針までー」に掲載されたものを転載しています。各目標の執筆者の所属、肩書、執筆内容は2020年3月末現在のものとなります。
最新の解説は、2025年9月に発行された「基本解説2025」で見ることができます。基本解説最新版の購入は、SDGsジャパン「資料・Shop」ページをご確認ください。
SDGs各ゴールについて
各ロゴをクリックいただけると、「目標」と「ターゲット」、「指標」の全文およびゴールの解説を読むことができます。
ここに掲載する「目標」と「ターゲット」は、A/70/L.1の外務省による仮訳を、「指標」は第48回国連統計委員会資料(E/CN.3/2017/2)を基に総務省で作成された仮訳(最終更新日2019年8月)をSDGsジャパンが専門的見地から一部修正したものです。
なお、各目標の解説は、2020年3月時点で執筆され、SDGsジャパンで発行した「基本解説そうだったのか。SDGs2020ー「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」から、日本の実施指針までー」に掲載されたものであり、各目標の執筆者の所属、肩書は2020年3月末現在のものとなります。
最新の解説は、2025年9月に発行された「基本解説2025」で見ることができます。基本解説最新版の購入は、SDGsジャパン「資料・Shop」ページをご確認ください。
目標8: 働きがいも経済成長も
包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
目標9: 産業と技術革新の基盤をつくろう
強くしなやか(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
目標15: 陸の豊かさも守ろう
陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
目標16: 平和と公正をすべての人に
持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
目標17: パートナーシップで目標を達成しよう
持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
解説:一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)
前文には「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」という理念が掲げられ、すべての国、およびすべてのステークホルダーによるパートナーシップの下、この計画を実行すると宣言されています。世界を持続的かつ強くしなやか(レジリエント)なものに移行されるために、大胆かつ変革的な手段をとることも、前文の中で強調されています。また、2030アジェンダの重要な要素として、「5つのP」、すなわち人間(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、平和(Peace)、パートナーシップ(Partnership)を掲げ、持続可能な開発の三側面である、経済、社会、環境を調和させなければならないと提唱しています。