目標8のターゲット・実施手段と指標
目標8: 働きがいも経済成長も
包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
ターゲット
8.1 各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。
指標
8.1.1 一人当たりの実質GDPの年間成長率
ターゲット
8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
指標
8.2.1 就業者一人当たりの実質GDPの年間成長率
ターゲット
8.3 生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する。
指標
8.3.1 農業以外におけるインフォーマル雇用の割合(性別ごと)
ターゲット
8.4 2030年までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る。
指標
8.4.1 マテリアルフットプリント(MF)、一人当たりMF及びGDP当たりのMF(指標12.2.1と同一指標)
8.4.2 天然資源等消費量(DMC)、一人当たりのDMC及びGDP当たりのDMC(指標12.2.2と同一指標)
ターゲット
8.5 2030年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する。
指標
8.5.1 女性及び男性労働者の平均時給(職業、年齢、障害者別)
8.5.2 失業率(性別、年齢、障害者別)
ターゲット
8.6 2020年までに、就労、就学及び職業訓練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす。
指標
8.6.1 就労、就学及び職業訓練のいずれも行っていない15~24歳の若者の割合
ターゲット
8.7 強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終らせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び根絶を達成する。2025年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働をなくす。
指標
8.7.1 児童労働者(5~17歳)の割合と数(性別、年齢別)
ターゲット
8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。
指標
8.8.1 致命的及び非致命的な労働災害の発生率(性別、移住状況別)
8.8.2 国際労働機関(ILO)原文ソース及び国内の法律に基づく、労働権利(結社及び団体交渉の自由)における国内コンプライアンスのレベル(性別、移住状況別)
ターゲット
8.9 2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。
指標
8.9.1 全GDP及びGDP成長率に占める割合としての観光業の直接GDP
8.9.2 全観光業における従業員数に占める持続可能な観光業の従業員数の割合
ターゲット
8.10 国内の金融機関の能力を強化し、全ての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する。
指標
8.10.1 成人10万人当たりの(a)商業銀行の支店数及び(b)ATM数
8.10.2 銀行や他の金融機関に口座を持つ、又はモバイルマネーサービスを利用する成人(15歳以上)の割合
実施手段
8.a 後発開発途上国への貿易関連技術支援のための拡大統合フレームワーク(EIF)などを通じた支援を含む、開発途上国、特に後発開発途上国に対する貿易のための援助を拡大する。
指標
8.a.1 貿易のための援助に対するコミットメントや支出
実施手段
8.b 2020年までに、若年雇用のための世界的戦略及び国際労働機関(ILO)の仕事に関する世界協定の実施を展開・運用化する。
指標
8.b.1 国家雇用戦略とは別途あるいはその一部として開発され運用されている若年雇用のための国家戦略の有無
解説 - 執筆:中野理(日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会理事・海外連携推進部長)
■目標の意味
目標8は3つの部分から成り立っています。環境の持続可能性を損なわず、包摂的でありながら持続する経済成長(sustained, inclusive and sustainable economic growth)を実現し、同時に全ての人々に完全かつ生産的な雇用(full and productive employment)と働きがいのある人間らしい仕事(decent work)をもたらすこと。
堅実な経済成長は、とりわけ開発途上国において生産的な雇用を創出・増進するために不可欠です。他方で、経済成長のみの追求は環境や人権を無視して生産・消費の規模拡大のみを無限に追求することに陥る危険性があります。したがって目標8における経済成長は生産・消費の拡大もさることながら、環境への配慮や人権の尊重、そしてディーセント・ワークの促進と両立し得るものとして設定されています。
この意味で目標8は生産・消費に関わる目標9・11・12や、環境に関わる目標13・14・15にも密接に関わりますが、とりわけ目標1と2、貧困と飢餓の根絶とは不可分です。一定の経済成長と雇用の増進、ディーセント・ワークの実現を抜きにしては、飢餓から脱却することも絶対的および相対的貧困を根絶することもできません。
■進捗と評価
国連の「SDGs報告」2019年度版によれば、開発途上国の実質GDP成長率(2010~2017年)は平均4.8%に止まり、ターゲット8.1が掲げる7%には達していません。他方で2018年の労働生産性は前年比2.1%増加し、2010年以来最大の年成長率を記録。ターゲット8.2はクリアしています。また時給の中央値は男性が女性を12%上回り、若者の5分の1が教育・訓練・仕事などに就いていない状態にあります。さらに国際労働機関(ILO)によれば、世界人口の約5%が失業しており、その数は約1億9,200万人に上ります。ターゲット8.5と8.6をクリアするには厳しい状況にあると言えるでしょう。
日本に目を移すと、2019年度版「SDG Index and Dashboards Report」によれば、目標8は上から2番目の評価となっています。人口に対する雇用率(76.9%)や若年層における「ニート」比率(9.8%)等の諸点で最高評価、名目GDP成長率(-0.4%)等の諸点で上から2番目の評価を得ていますが、日本を含む先進国は経済成長率が鈍化する傾向が否めないこともあり、日本における目標8に関する取り組みは一定の評価を得ていると言えるでしょう。
■日本における今後の課題
しかしながら、楽観視するには程遠い現状を示すデータも少なくありません。例えば日本は経済成長率の低迷に加え、経済成長を支えるエネルギー供給も約87%を化石燃料に依存しており、これは「経済成長と環境悪化の分断」を掲げるターゲット8.4に逆行しています。また完全失業率こそ2.2%と低いものの、非正規雇用率は38.2%に上り、約2,179万人がパート・アルバイト・派遣社員等として低賃金かつ不安定な労働条件のもとで働いています(2020年1月総務省発表)。こうした現状を改善するためには、2020年4月から施工された「パートタイム・有期雇用労働法」を通じて「同一労働同一賃金」が徹底されることが先決です。この非正規雇用労働者の約68%は女性が占めているため、その待遇改善は女性の経済的地位向上のためにも欠かせません。一般労働者全体でも女性の賃金水準は男性の賃金水準の73.3%にとどまっており、男女の賃金格差の是正は喫緊の課題です(2018年厚労省「賃金構造基本統計調査」)。
障害者の就労については、日本の民間企業の法定雇用率(2.2%)は例えばフランス(6%)等に比して低く設定されているにも関わらず、それすら達成している企業の割合は48%にとどまっています(2019年厚労省「障害者雇用状況の集計結果」)。また2019年に内閣府は、自宅に半年以上閉じこもっている「ひきこもり」が15歳から39歳で約54万人、40歳から64歳で約61万人に達すると発表しました。これらのデータは、日本がターゲット8.5の実現にはいまだ程遠い現状にあることを示しています。さらに日本にはすでに約256万人の外国人が居住しているにもかかわらず(2017年法務省「在留外国人統計」)、政府の公式見解としては「移民」政策を否定し、すでに国際社会からの批判に晒されている「技能実習生制度」に加えて、改正出入国管理法の施行(2019年4月)により新たな在留資格「特定技能」を設け、家族の帯同が認められない等の差別的な条件のもとで外国人労働者を呼び込もうとしています。これは全ての「移民労働者」の権利の保護を掲げるターゲット8.8に逆行しており、政策の根本的かつ迅速な見直しが求められます。
かくして日本における目標8の実現にはいまだ数多くの課題が山積していると言わざるを得ません。これら諸課題を解決するためには、政府や企業が経済成長や雇用・労働のあり方に対する従来の方針を抜本的に改め、市民社会・労働組合・協同組合・アカデミア等と緊密に連携しながら、迅速に取り組むことが不可欠です。2030年まであと10年、私たちに残された時間は限られているのです。
*各目標の解説は、2020年3月時点で執筆され、SDGsジャパンで発行した「基本解説そうだったのか。SDGs2020ー「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」から、日本の実施指針までー」に掲載されたものを転載しています。各目標の執筆者の所属、肩書、執筆内容は2020年3月末現在のものとなります。
最新の解説は、2025年9月に発行された「基本解説2025」で見ることができます。基本解説最新版の購入は、SDGsジャパン「資料・Shop」ページをご確認ください。
前文には「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」という理念が掲げられ、すべての国、およびすべてのステークホルダーによるパートナーシップの下、この計画を実行すると宣言されています。世界を持続的かつ強くしなやか(レジリエント)なものに移行されるために、大胆かつ変革的な手段をとることも、前文の中で強調されています。また、2030アジェンダの重要な要素として、「5つのP」、すなわち人間(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、平和(Peace)、パートナーシップ(Partnership)を掲げ、持続可能な開発の三側面である、経済、社会、環境を調和させなければならないと提唱しています。
SDGs各ゴールについて
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ここに掲載する「目標」と「ターゲット」は、A/70/L.1の外務省による仮訳を、「指標」は第48回国連統計委員会資料(E/CN.3/2017/2)を基に総務省で作成された仮訳(最終更新日2019年8月)をSDGsジャパンが専門的見地から一部修正したものです。
なお、各目標の解説は、2020年3月時点で執筆され、SDGsジャパンで発行した「基本解説そうだったのか。SDGs2020ー「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」から、日本の実施指針までー」に掲載されたものであり、各目標の執筆者の所属、肩書は2020年3月末現在のものとなります。
最新の解説は、2025年9月に発行された「基本解説2025」で見ることができます。基本解説最新版の購入は、SDGsジャパン「資料・Shop」ページをご確認ください。
目標8: 働きがいも経済成長も
包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
目標9: 産業と技術革新の基盤をつくろう
強くしなやか(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
目標15: 陸の豊かさも守ろう
陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
目標17: パートナーシップで目標を達成しよう
持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
解説:一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)