12/15「コロナ時代のSDGs」誰一人取り残さない社会に向けた声明
12月15日、一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク(以下、SDGsジャパン)は、「コロナ時代のSDGs 『誰一人取り残さない』社会の実現に向けた市民社会の実践」を発表、コロナ時代の社会の変革に向けた、市民社会による具体的な事例を紹介しました。
貧困や格差といった以前からの社会課題がコロナによってさらに悪化をしており、脆弱な立場にある人ほど困窮しやすい状態が続いています。本声明では、貧困、差別と格差、暴力をテーマに、「誰一人取り残さない」ための市民社会の実践を紹介します。
社会の変革はすべての人の安全と安心が保障された上で進められるべきです。しかし、コロナ下では格差が広がり、困窮する人々が増えています。あらゆる人々を包摂する社会の実現のため、当事者の声を社会に反映することが大切です。
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コロナ時代のSDGs
「誰一人取り残さない」社会の実現に向けた市民社会の実践
一般社団法人 SDGs市民社会ネットワーク
共同代表理事 大橋正明・三輪敦子
「誰一人取り残すことなく、貧困のない持続可能な社会へ世界を変革する」
これは、2015年に国連で採択された世界の指針「持続可能な開発目標」(SDGs)の根底にある理念です。一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク(以下、SDGsジャパン)は、多様な当事者を含む市民社会の視点からSDGsの達成を目指しています。コロナの世界的大流行は社会を一変させました。社会・経済・環境の複合的で緊急の課題を抱える今こそ、「SDGsを軸にした対策」が変革に必要です。
1. 困難に直面する人々の増加
貧困や格差といった以前からの社会課題がコロナによってさらに悪化をしており、脆弱な立場にある人ほど困窮しやすい状態が続いています。例えば、医療の逼迫は高齢者や障害者など医療ケアが必要な人々にとってより深刻です。また、非正規雇用やエッセンシャルワークに占める女性の割合が高いことや家事労働の女性への偏りといったジェンダーギャップが、10月の女性の自殺者数の増加(前年同月比で82.8%増)の背景にあると考えられます。
8月に発表した声明ではコロナで顕在化された7つの課題を取り上げ、10月の声明では「レジリエントな社会」の実現に向けた市民社会の実践を紹介しました。今回は、貧困、差別と格差、暴力をテーマに、「誰一人取り残さない」ための市民社会の実践を紹介します。
2. 市民社会が関わる実践例
1.貧困の根絶
困窮者への生活支援には現場での活動が欠かせません。多くの市民社会が食料配布や相談事業を通じて緊急的な生活支援と社会保障制度へのアクセス支援を行なっています。しかし、新たに貧困に陥った人々の中には公的な社会保障の活用を躊躇する人もいます。安心して社会保障制度を利用できる社会の環境を整えることも重要になっています。
「NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ」は、ひとり親世帯を対象にお米や食品を毎月約2,000世帯に送る支援をしています。定期的なアンケート調査も実施し、ひとり親世帯の生活実態の把握に努めています。この調査から、収入の減少によってひとり親世帯が困窮している現状や、フードバンクなどの支援事業に求められる改善点が明らかになっています。また、雇用希望者に向けたITスキル支援など、コロナ下に合わせた新たな就労支援も広がっています。
2.差別と格差の解消
常時医療ケアを利用したり障害をもつ人々は、正確な情報と知識、技術による支援を必要としており、適切な医療を受けられる機会や介護機器の確保が欠かせません。障害者団体は、社会保障の充実や、制度にある差別の是正を提言しています。例えば、障害福祉サービスに関わる包括支援交付金は触手話を行う通訳者を対象にしておらず、コロナ感染のリスクを抱える医療従事者の枠組みが限定的となっています。当事者や支援者の声を反映させ、支援の質を高めることが重要です。
通信インフラの未整備や貧困、障害などが理由でオンライン学習を活用できない子どもたちに向けて、屋外での対面交流の機会や自宅用学習用の教材を提供している団体も多くあります。教育機会の不平等による格差を生まないために学習を継続できるよう支援をしています。
災害救援活動では、多くの市民社会が高齢者や障害者を対象に衛生用品の配布を行い、「災害弱者」を支援するガイドラインの整備も進めています。コミュニティでの孤立防止のための傾聴活動やオンライン健康相談、多言語での支援提供や子どもの学習支援も強化しています。
国境の移動に制限がかかる中で、各国政府による感染予防策の行き届きにくい人々への支援が滞っています。国際NGOは、避難民や難民、障害者、感染や重症化リスクの高い人々、都市部から離れた地域に住む人々を対象に、感染予防啓発やマスク・石けん等の物資供給を実施しています。また、結核対策や妊産婦ケアなど平時からの保健サービスを維持する活動にも取り組んでいます。国際支援の継続と強化には政府による資金拠出の拡充も重要です。
3. 暴力の根絶
「子どもに対する暴力撤廃のためのグローバルパートナーシップ(GPeVAC)」の国内行動計画(NAP)には、市民社会の要請を受け、コロナへの対応が盛り込まれました。「公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」は子どもを虐待や体罰等から守るための要望書を政府に提出したほか、「ポジティブな子育て」の発信や子ども支援現場とともに考えるオンラインイベントを開催して親・養育者の支援も進めています。
DV被害者の保護活動や、少女を対象にした生活支援活動を行う市民社会団体が増えています。LINEやチャットなどの多様な相談チャンネルでは、10代や20代の女性からの家庭内暴力や妊娠など性に関する相談が増えています。相談体制の拡大に向けて、公的資金の投入と相談員の養成が急務となっています。
4.提言活動
「第5次男女共同参画基本計画策定」の意見募集に際し、「JYPS(持続可能な社会にむけたジャパンユースプラットフォーム)」は、公益財団法人ジョイセフからの支援のもと、他のユース団体と連携して「第5次男女共同参画基本計画パブリックコメントに伴うユースからの提言」を内閣府に提出しました。この提言は次世代を担うユースの立場から、多様なジェンダーや年齢を包括した施策立案の重要性を提起し、ジェンダー平等や暴力根絶の実現を求めています。
国連アジア太平洋経済社会委員会が主催する北東アジア市民社会フォーラムでは、中国・韓国・モンゴル・日本の市民社会メンバーが、経済・社会・環境のすべての側面での国際連帯を目指し提言書を提出しました。
2020年4月、SDGs達成に向けて取り組む世界の市民社会は、国連と各国政府に対して脆弱な立場にある人々を支援するよう求める共通宣言を発表しました。この宣言は、COVID-19の復興基金の設立や社会保障およびセーフティネットの充実を提案しています。
SDGsジャパンは「SDGsとコロナ」をテーマとして与野党との意見交換会やSDGs推進本部事務局への政策提言を行い、「誰一人取り残さない」コロナ対策の重要性を提起しています。また、多くの市民社会団体がコロナ対策に関する声明や提言書を発表しています。
社会の変革はすべての人の安全と安心が保障された上で進められるべきです。しかし、コロナ下では格差が広がり、困窮する人々が増えています。あらゆる人々を包摂する社会の実現のため、当事者の声を社会に反映することが大切です。
SDGsジャパンは「誰一人取り残されない」社会の実現を目指し、今こそ、「SDGsを軸にした対策」の重要性を提案します。今後も、市民社会の活動に根ざした社会の変革について、その取り組みと成果を発信していきます。
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