政府「SDGs実施指針」改定に向けたSDGsジャパンの取り組み
SDGsの実現に向けた日本政府の国家戦略である「SDGs実施指針」は、2016年12月に策定され、国連で4年に一回開催されるSDGsサミット(持続可能な開発のためのハイレベル政治フォーラム首脳会議)の年毎に改定されることになっていました。2015年9月の「国連SDGs採択サミット」以来初めての「SDGsサミット」開催年となった2019年の6月の政府「SDGs推進本部」会議において指針の改定が決まり、12月の「SDGs推進本部」会議に向けて改定作業が取り組まれることになりました。
SDGs市民社会ネットワークは、2016年の「SDGs実施指針」策定に、様々な形で協力しました。また、この指針策定に向けて常設機関としてつくられた「SDGs推進円卓会議」にも、市民社会から構成員3名を選出し、積極的にかかわってきました。今回のSDGs実施指針改定についても、円卓会議の構成員として、また、市民社会のアドボカシーの調整役として取り組んできました。その経緯と成果について、以下説明します。
9月6日「SDGs実施指針改定に向けたステークホルダー会議」に向けて
政府の「SDGs推進円卓会議」は、2016年のSDGs実施指針策定に向けて政府「SDGs推進本部」が設置したもので、市民社会選出の構成員3名を含め、民間企業やアカデミア、国連機関、労働組合、消費者団体など、様々なステークホルダーから選出された14名の構成員で構成されています。基本、「SDGs推進本部」会議が開催される1か月程度前に、同本部の議題や、日本のSDGs推進の在り方等について、各セクターや有識者の意見を聞く、ということで、年2回、2時間程度の開催となっています。
しかし、これだけでは、政府のSDGs政策について十分なインプットができないことから、今回の指針改定に向けて、もっと積極的に動こう、という声が、多くの委員から上がりました。この動きは、円卓会議の構成員がリードする形で、SDGs推進に関する国家戦略であるSDGs実施指針の改定に向けて、広く国民・市民の意見を集めよう、ということで、9月6日に国連大学「エリザベス・ローズ会議場」にて「SDGs実施指針改定に関するステークホルダー会議」を開催するということに決まりました。SDGsジャパンは、慶応大学の蟹江憲史教授の研究室と共に共同事務局を担うことになりました。SDGs推進本部の事務局を担っている外務省地球規模課題総括課も、広報や内容面で積極的に協力しました。また、国連大学サステイナビリティ高等研究所が、会場などのロジスティックス面や内容面で積極的に協力しました。結果として、9月6日のステークホルダー会議は、各界から関心を持つ人々200人以上が参加、積極的に討議を繰り広げました。外務省からも鈴木憲和・外務大臣政務官が開会式に参加したほか、地球規模課題総括課の吉田綾課長をはじめ、指針改定にかかわる主要なスタッフも参加し、一般参加者の意見に耳を傾けました。この会議の討議結果は、9月7~8日の二日間を使って円卓会議構成員によって提言書にまとめられ、9月9日に外務省で開催された臨時のSDGs推進円卓会議で、塚田玉樹・外務省地球規模課題審議官(SDGs推進本部幹事会副議長)に提出されました。このプロセスは、日本政府からも「広く国民の知見をSDGsの目標達成へ向けて集める観点から極めて有意義であった」と評価されています。
提言書データはこちら
2.11月11日~25日「パブリック・コメント」に向けて
(1)パブコメ・ガイドの作成・発行
この円卓会議と前後して、日本政府は、SDGs推進本部事務局である外務省地球規模課題総括課を中心に、改定「SDGs実施指針」の「骨子案」をまとめ、これをパブリック・コメントにかけ、広く国民・市民の意見を募集するということで作業を進めていきました。一方、SDGs市民社会ネットワークは、この「パブリック・コメント」について、どの様にパブリック・コメントを書いて政府に届けるか、また、パブリック・コメントの内容はどうすればよいか、という2点について「SDGs実施指針改定に向けたパブコメ・ガイド(基本編・内容編)」を作成し、関係者を含め多くの人々に、パブリック・コメントでそれぞれの意見を政府に届けよう、と呼びかけました。
(2)指針「骨子案」に関する意見表明
また、SDGsジャパンは、政府がパブコメ募集に向けて発表する「骨子案」に関して、ネットワークに参加する100以上の団体が構成する11の分野別ユニットの意見を取り入れながら、凡そ、以下の5点からなる意見書を作成しました。
SDGs達成に向けた危機意識の表明を
貧困・格差の是正およびジェンダー平等を優先課題に
「2030年目標」を設定し、「バックキャスティング」の手法の導入を
SDGs達成に向けた日本の取り組みがわかる透明性の高い指針を
マルチステークホルダープロセスによる立案・決定・実施・評価の実現を
また、SDGs円卓会議構成員有志は、2030年における国内外のSDGsの達成を真に目指す指針を、ということで、特にバックキャスティング手法の導入と政府の役割の明確化を中心とした意見書をまとめ、構成員全員の賛同を得て、11月15日に塚田外務省地球規模課題審議官に提出しました。
(3)パブコメに関する働きかけの成果
結局、2週間にわたって行われたパブコメ募集に寄せられた意見数は、地球規模課題総括課の取りまとめによれば303件と、2016年の「SDGs実施指針」策定時のパブコメ意見数(191件)に比べて58%増加しました。このうち、28%が「ジェンダー平等の推進」、7%が「ステークホルダーの参画促進」、5%がESD(持続可能な開発のための教育)の促進など教育分野、5%が「目標達成に向けたロードマップの策定」などとなっています。SDGsジャパンとしても、これらパブコメ募集に寄せられた意見が、指針に反映されることを願っています。
SDGsジャパンによるパブコメはこちら(PDF)
3.各政党との意見交換会の開催:立法府の参画を求めて
「SDGs推進本部」は、内閣官房におかれ、事務局は外務省が務める行政府の機構であり、「SDGs実施指針」は、政府が「SDGs推進本部」で策定する行政文書です。現状では、SDGsに関して立法府(国会)のかかわりが見えなくなっています。今回のSDGs実施指針改定に向けて、SDGs市民社会ネットワークは、SDGs推進を行政府だけでなく、立法府が積極的に参加して、国民・市民の基盤の下に進められるように、という趣旨に基づき、各政党の主催による意見交換会の開催を積極的にサポートしました。
11月14日には、まず、自民党SDGs外交議連の会合が行われ、「SDGs実施指針」をテーマに、幅広く意見交換をしました。特に、SDGs実施のための予算をどうするか、という点に焦点があたりました。
11月20日には、公明党SDGs推進委員会のヒアリングが行われました。この会合には、様々な分野に取り組む市民社会団体が参加して、参加した国会議員と共に、SDGs実施指針に関する市民側の要望を、出席した政府関係者に伝えました。公明党はその後、12月12日に、SDGs実施指針改定案に関する包括的な要望書を、総理官邸で菅官房長官に提出しています。
さらに11月28日には、立憲民主党・国民民主党等でつくる共同会派による意見交換会が開かれ、こちらにも多くの市民社会団体が参加して、「SDGs実施指針」に関する要望を伝えました。
SDGsを真に国民・市民に共有されたものにするには、「SDGs推進本部」「SDGs実施指針」といった行政府の仕組みだけでなく、国会、政党も含めた取り組みが必要です。「SDGs実施指針」改定を踏まえ、SDGsジャパンとしても、積極的に、SDGs達成に向けた立法府の積極的な関与に向けて取り組んでいきたいと考えています。