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大橋正明・共同代表理事より新年のご挨拶


2020年の大半、私たちは新型コロナウイルス感染症のパンデミックという未経験の対応に追われ続けました。2021年になった今も、私たちはこの対応に追われていますが、SDGs市民社会ネットワークにとっては気になる新しい事態も見え始めています。それは、この感染症を予防するワクチンがグローバルレベルで公正に配分され、必要な人が優先されて接種されるか、という事です。


私たちはこのコロナ禍 で何度か発出した声明の中で、繰り返し「今こそ、SDGs の理念に基づく対策」が必要だと訴えてきました。なぜなら、SDGsの健康に関するゴール3のターゲット3.8に、


全ての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する。

と明確に書かれているからです。先進国や新興国、途上国の一部で開発されたワクチンの接種が開始されていますが、全ての人々にこのワクチンは届けられるでしょうか?


悪夢のような前例があります。HIV/エイズの治療薬は1996年頃に開発され、公的医療体制が確立していた先進国の感染者はすぐにその恩恵を受けることができたのですが、途上国のエイズ患者やHIV感染者たちは知的財産権(特許権)のために高額な薬に手が出せず、その結果多くの患者の命がなくなりました。私的な財産権のために人命が軽視されるという事態は、その後約10年もの歳月を経て解消されていきました。今回のワクチンで、この愚が繰り返されてはなりません。


今回は中国やインドと言った新興国でもワクチンが開発・製造され、接種が始まっています。2021年1月22日のBBCによると、インドにある世界最大のワクチンメーカーSIIはアストラゼネカ社が開発したワクチンをライセンス契約で生産し、インド政府は近隣の友好国に少しずつ贈呈したほか、このメーカーはブラジル、サウジアラビア、バングラデシュ、モロッコ、南アフリカに商業ベースで輸出を始めました。また中国製ワクチンも、パキスタンやミャンマーを始めとした世界各地に送られています。


ここで気になるのは、「ワクチン外交」です。中国もインドも、友好的あるいは重要な国にワクチンを優先的に提供することで自国の影響力を高めるように見えるからです。つまりこのパンデミックのリスクではなく、二国間関係という政治的な理由が優先されそうです。それぞれの国での接種でも、例えば有力者や富裕層が優先されないか、スラム住民や難民や少数者が後回しにされないか、と言った課題も残ります。ちなみに日本政府は、必要十分な量を購入したと発表しています。


実は国際社会はこうした問題を回避するために、国連のWHO(世界保健機関)主導で「ACTアクセラレーター」と呼ばれる国際協働メカニズムを2020年4月に発足し、新型コロナウイルス感染症の診断、治療、ワクチンの3分野での開発と生産、そしてそれらへの公平なアクセスを実現する試みを進めてきました。しかしこのための資金の集まりは全く不十分です。またそのメカニズムの一つである「COVAX ファシリティー」というワクチンを共同購入し途上国に提供する仕組みが仮にうまくいっても、それで購入されるワクチン量は人口の僅か20%分だけです。ただ、 アメリカのバイデン新大統領が1月21日にこの仕組みへの加入を宣言したのは、嬉しい知らせです。


今回はHIV/エイズの時よりは少し改善しそうですが、まだ国際協力のメカニズムは不十分だし、今回開発された諸ワクチンの特許を含めた知的財産権も、現時点では開発・製造した製薬会社に帰属し保護されたままなので、「誰一人取り残さない」ワクチン供給を実現するという根本的な解決には至っていません。そ のため今後、新型コロナ感染症の治療薬や検査技術などが開発されても、HIV/エイズのときと同様な深刻な問題が生じる可能性を否定できません。


7月に、日本政府は国連でSDGsの進捗について「自発的報告」を行う予定です。UHCの旗を振る日本政府が、こうした状況についてどう語るのかが注目されます。一方私たちは市民版報告を作成して発表する予定です。


というわけで、私たちは今年も忙しくなりそうです。皆様どうかお元気でお過ごしください。また変わらずの、あるいは一層のご支援を、心よりお願い申し上げます。

 


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