[SDGs Blog] 栄養の危機と「東京栄養サミット」への期待
SDGsジャパンの事業統括ユニットのひとつ、途上国開発全般・開発資金ユニット(開発ユニット)の幹事団体である公益財団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの堀江由美子さんに「栄養の危機と「東京栄養サミット」への期待」を寄稿いただきました。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行や気候変動が注目される中、日本ではほとんど報道されることのない静かな危機、それが現代の飢餓問題です。今、アフリカや中東、中南米の国々、そして世界が見つめるアフガニスタンやミャンマーでも、飢餓が深刻な問題となっています。ここ数十年、着実に減少していた飢餓人口は、2015年ごろから再び増加に転じ、今年7月に国連が発表した報告書『世界の食料安全保障と栄養の現状2021』によると、2020年の世界の飢餓人口の推定値は、新型コロナウイルス感染症の影響もあり最大で8億1,100万人にのぼり、前年から1億6,100万人増加するとされています[1]。これは世界人口の約10分の1を占めます。また食料不足に直面する人は最大3億2,000万人増加し、23億7,000万人。これはなんと3人に1人にあたります。長引く紛争や気候変動、そして新型コロナウイルス感染症は、もともと脆弱な立場に置かれていた人々をさらに苦境に追い込んでいます。
この危機に対し、セーブ・ザ・チルドレンは以下の4分野の行動を呼びかけています[2]。(1)紛争下の栄養不良への対処―紛争で不安定な地域は、パンデミックの影響でさらに食や栄養の支援が十分に届いていません。国際社会が協力して資金を確保し人道支援を強化する必要があります。(2)保健と栄養のサービスの強化―世界人口の約半数が基礎的な保健サービスが受けられておらず、パンデミックで状況はさらに悪化しています。すべての人が栄養指導や栄養不良の治療などを含む保健サービスを受けられるよう仕組みの改革が不可欠です。(3)母乳育児の促進、支援―母乳育児により年間82万人以上の赤ちゃんの命が救われますが、新型コロナウイルス感染への不安や誤った情報から母乳を与えることをやめる母親が増えています。母親をサポートする保健ワーカーへの支援や、母乳代替品のマーケティングに関する国際規準の順守の徹底が必要です。(4)食料へのアクセス確保―飢餓予防への投資、生計支援や現金給付の拡大、またすべての人が安全で栄養価の高い食料を手ごろな価格で購入できるよう食料システムの変革が必要です。
今年12月7日・8日に日本政府が「東京栄養サミット」を主催することをご存じでしょうか[3]。このサミットは2012年ロンドン・オリンピックパラリンピックを開催した英国政府が立ち上げたイニシアティブで、以降、夏季大会主催国のブラジル、そして日本へと引き継がれてきました。見落とされがちな世界の栄養問題に光を当て、解決に必要な資金を確保するための重要な機会となります。サミットでは、日本を含む各国政府や国際機関、NGO、企業より、具体的な約束が示されることが求められています。栄養不良への対処法は、すでに科学的に立証されており、必要なのは政治的意思とそれを実行するための資金です。飢餓や栄養不良に苦しむ人々、特に子どもたちを、世界はこれ以上見捨ててはなりません。「東京栄養サミット」の動向に、ぜひご注目ください。
[1] 『世界の食料安全保障と栄養の現状2021』、2021年7月、国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、国連児童基金(UNICEF)、国連世界食糧計画(WFP)、国際保健機関(WHO) https://www.fao.org/publications/sofi/2021/en/ [2] 『栄養の危機』、2020年12月、セーブ・ザ・チルドレン http://www.savechildren.or.jp/scjcms/dat/img/blog/3443/1613967813620.pdf [3] 「東京栄養サミット」ウェブサイト https://nutritionforgrowth.org/events-japanese/ https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ghp/page25_002043.html
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