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HLPF閣僚宣言に関するアジア太平洋市民社会参画メカニズムの声明

アジア太平洋市民社会参画メカニズム(以下、APRCEM)は、2022年7月に開催された国連ハイレベル政治フォーラム(以下、HLPF)における閣僚宣言に対し、強い失望を表明する声明を発表しました。


【APRCEMとは】

アジア太平洋地域の市民社会の声を地域および世界レベルの政府間会合に届けるための市民社会プラットフォームです。国連のSDGsプロセスに公式に提言を提出する資格を有しており、SDGs市民社会ネットワークもこれに参加しています。


【HLPFとは】

HLPFは各国の代表が集まってSDGsの進捗状況を共有し、SDGs達成への行動の加速を働きかけるための閣僚級会合です。7月6日から7月16日にかけて開催された今年のHLPFでは以下の5つの目標について重点的に見直しを行いました。

SDG 4 質の高い教育をみんなに

SDG 5 ジェンダー平等の実現

SDG 14 海の豊かさを守ろう

SDG 15 陸の豊かさも守ろう

SDG 17 パートナーシップで目標を達成しよう


 

【APRCEMの声明の概要】


私たちアジア太平洋地域の38カ国、610の市民社会組織は、HLPF2022で採択されたの閣僚宣言が、SDGs達成に向けた「行動の10年(Decade of Action)」に求められる危機感にもかかわらず、いずれの分野においても政治的リーダーシップを示すことができなかったことに対し、最大限の失望を表明する。


1.コロナのワクチン、治療薬、診断薬、技術移転に関する知的財産の貿易協定について政治的関与への言及を欠く。

〈分析〉

企業利益を追求する多国籍企業の姿勢が、コロナ対策で取り残された国々におけるワクチンの公平な配分を悪化させた。その状況下で、市民社会は、包括的な知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)免除やワクチンの後発品製造の技術移転とライセンスの供与、及び関連する診断薬と治療法の措置を要求してきた。しかし今回の閣僚宣言は、TRIPSプラスに合意し既存の規則を強化した第12回WTO閣僚会議の結果に倣うだけだった。


〈提言〉

質の高い公衆衛生を維持するための、コロナに対する多国間決議を求める。


2.債務危機に関する言及が不十分。

〈分析〉

宣言ではアジア太平洋諸国を襲った「世界的な公的債務の急増」を憂慮するものの、対策としてはリストラと「健全な債務管理」に重点を置いており、過酷な債務負担の解消にはつながらない。


〈提言〉

① 政府、多国間機関、民間債権者など全ての債権者からの債務の取消しを通じて、持続可能な債務対応を提案する。既存の債務返済停止イニシアティブ(DSSI) や債務処理に関する共通枠組み(CF)では、債務危機に対処できない。

② 国連の支援のもとで国家債務処理メカニズムの確立を求める。


3.すべての人のための包括的で公平な質の高い教育と生涯学習の機会の実現には不十分。

〈分析〉

COVID-19のパンデミックは、入学率は高いが学習の成果が低いというアジア太平洋地域の教育に関する状況を悪化させた。宣言でコロナ下における学校閉鎖の影響に触れたことは評価するが、識字能力と計算能力に限定した学習を奨励しているにすぎない。


〈提言〉

① 学習機会の改善に向けた具体的行動と、公平な学習を実現する教育システムへの変革を求める。

② コロナ危機、気候変動危機およびウクライナ危機を抱える中、包括的で公平な質の高い教育の実現のため、すべての子どもと若者のための生涯スキルと性教育に焦点を当てる必要がある。


4.ジェンダー平等と女性の人権に対する関与が不十分。

〈分析〉

コロナ下におけるジェンダー平等に向けた成果の後退や、深く根付いた不平等や差別へのg隊的な解決策を示していない。特に、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツの普遍的アクセスに関する提言が不十分。また、制度的、構造的な差別と暴力だけではなく、あらゆる人権擁護者が直面するジェンダー特有の課題についても認識が不足している。


〈提言〉

デジタル技術の新たな利用によって拡大するジェンダー格差、女性や少女への暴力と戦うための、具体的かつ実行可能な提言が求められる。


5.環境保全と、コミュニティや人々の生活の保障を両立できていない。

〈分析〉

海洋資源の汚染は世界的課題であるにも関わらず、宣言では政治、技術、財政的支援を結集した多面的な戦略の必要性が十分に強調されていない。先住民族についての言及があるが、SDG15で中核となる先住民族の集団的土地権の認識・尊重については明記されていない。宣言が強調する「自然に根ざした解決策(NbS)」は、企業による土地買収や森林破壊を引き起こし、先住民族の生活領域に対する価値観にも影響を与えかねない。


〈提言〉

① 現在提案されているカーボン・ニュートラルは完全な脱炭素化を基礎とするものではなく、炭素排出を吸収するためのNbSに依存し、主に途上国のカーボン・マーケットに依存するものである。カーボン・ニュートラルではなくリアル・ゼロ・エミッションに移行する必要がある。

② NbSやその他の誤った解決策が企業利益の追求のための戦術として終わることがないよう、効率的な説明責任メカニズムと結びついた生物多様性保全と気候変動に対する権利ベースのアプローチを強調すべき。


6.軍国主義および軍事費への資金提供の増加について言及していない。

〈分析〉

宣言が植民地や外国の占領下で暮らす人々の自己決定権や平和と正義の関連性を強調した点は評価できる。しかし、現在進行中のウクライナ危機の影響に関する懸念を充分に表明できていない。


〈提言〉

① 人々の自由を守るため、植民地主義、軍国主義および紛争に対応するための多国間支援が必要。

② 各国が拠出している巨額の軍事費を社会保障のための資金に振り分けるべき。


7.国連「2030アジェンダ」における企業の役割に言及できていない。

〈分析〉

宣言で過度に強調された企業とのパートナーシップへの依存は、企業によるグローバルな公共財とサービスの占有を進めるおそれがある。


〈提言〉

資本市場主導の解決策は、短期主義的で持続不可能である。企業が「2030アジェンダ」を取り入れるのならば、遡及課税のような制度を通じて、特にグローバル・サウスにおける環境破壊や人権侵害に対する歴史的責任を果たす必要がある。


(*APRSEMの声明では上記の他にも、閣僚宣言が貿易自由化をさらに強固なものにしていること、主要グループおよびその他のステークホルダー(MGoS)への言及を欠いていること、国内と地域およびグローバルの連携に言及が弱いことも課題としています。)

 

【今回の声明を受けて感じたこと】

APRCEMの声明が指摘したように、閣僚宣言が形骸化してしまってはSDGs推進のための国際協力を図るどころか、逆効果になりかねません。閣僚宣言は、多くの人々が納得できるような説得力のある明確なものであるべきです。


重要なことは、形式や体裁ではなく、具体的かつ実現可能な政策が明示されることです。「誰一人取り残さない」社会の実現のためにも、私たち一人一人が、積み重なる社会問題に関心を抱き意見を持ち、政策に反映させられるように努めることも大切なのではないでしょうか。

執筆:SDGs市民社会ネットワーク インターン 雨宮嘉香

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