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国連未来サミット成果文書「未来のための協定」最終稿に関する日本の市民社会の提言と評価 (2024年9月21日現在)

9月22日・23日にニューヨークの国連本部で開かれる、未来世代のために地球規模の課題への国際的な協力を各国の首脳が話し合う「未来サミット」では、、国際社会の具体的な行動指針を示した成果文書「未来のための協定」の採択が目指されています。


21日、日本の市民社会より、「未来のための協定」最終稿に対する提言と評価が発表されました。



 

国連未来サミット成果文書「未来のための協定」最終稿に関する日本の市民社会の提言と評価 (2024 年9月21日現在)


本文書は、国連未来サミット成果文書「未来のための協定」最終稿に関する日本の市民社会の提言と評価です。


本稿は、締約国間の交渉の結果、準備過程における時間的制約もあり、未来サミットに参加している各提案団体/者の意見を中心に構成されています。署名のある下記の団体・個人の意見であり、記載がない限り 、日本国内の NGO・NPO などを中心に約 140 団体が参加する「(一般社団法人)SDGs 市民社会ネットワーク(略称「SDGs ジャパン」の事業ユニットもしくは他団体に合意されたものではありません。


また、9月21日現在、未来サミット成果文書の最終版として確定し、22 日の未来サミット初日に締約国の投票にかけられますが、採択されるかは見通しがついていません。未来サミット全体についての評価・提言は、後日あらためて SDGs ジャパンから発出します。


なお、2024 年 4 月時点の「未来のための協定」ゼロドラフトをうけて発表した「国連未来サミットに向けた日本の市民社会の第一次提言」は、SDGs ジャパンの、「多国間解決による、より良い明日を目指して」と題する国連未来サミットの目的に賛同し、主にアドボカシーを担う「事業ユニット幹事会」に参加する団体の中から幹事による「国連未来サミット世話人」が主体となり、それにこのネットワーク内外から有志が数名参加する形で作成しました。

*各章の意見は、記載がない限り SDGsジャパン内等で出された意見を取りまとめたものではなく、署名のある団体・個人が、これらの意見に責任を負います。


前文


●  市民社会ネットワーク(SDGs ジャパン)大橋正明

約半年に亘る政府間交渉を繰り返し、未来サミットで採択を目指すこの新たな合意は、これまでの国連の多数の宣言や取り決め,特に残りが僅か 6 年間となった持続可能な開発目標(SDGs )を実現すること,そして国連を中心とする多国間主義を再度強化し平和を確立することを強く表明しています。


● SDGs ジャパン地域ユニット/認定 NPO 法人藤沢市民活動推進機構 五十嵐めぐみ

人権基盤型アプローチの普及・実施の強化:1990 年代における国連改革,その後の,国連

(旧)開発グループや国連人権理事会における人権基盤型アプローチに関する議論と実践,さらには「普遍的価値」をめぐる今日の世界の状況を適切に踏まえ,人権原則とその重要性に一定の分量をさく形で言及していることについて,強い支持を表明する。


第1章  持続可能な開発と開発のための金融


● ワールド・ビジョン・ジャパン 柴田哲子

最終稿における第 1 章は、日本の市民社会がゼロドラフトに対し提言した ODA の数値目標明記や革新的資金メカニズムの記載なども複数反映されており、内容が大幅に増加・改善した。全体的に SDGs が直面する課題の重大性・緊急性を示し、国際協調の必要性を強調した、行動志向の内容となっている。


特に貧困の根絶を取り組みの中心に据え、脆弱層が適切に支援されることを明記したほか、飢餓、食料不安と栄養不良の根絶に大幅に記載が増えている点は、SDGs の原点に立ち返っており評価できる。また、途上国における SDGs 実施のための資金ギャップ解消に対する強いコミットメントが表明され、具体的な手段も複数明記されている。


一方、資金ギャップ解消の手段の一つとして挙げられている公的資金を民間投資拡大の触媒として利用することについては、債務管理・アカウンタビリティの観点から慎重な対応と国際協調が求められる。また、HLPF の役割強化が挙げられているが、同時に HLPF におけるアカウンタビリティの強化、特に脆弱層に対する持続可能な開発の成果の浸透について国際的に共有される仕組みの構築も必要となる。


全体的に高いコミットメントが表明されているが、実際にこれらのコミットメントが有効性を発揮できるか否かは、加盟国それぞれの政治的意思と国際協調の成否に大きく依存しているところが課題として挙げられる。


● 「環境・持続社会」研究センター(JACSES)足立治郎

気候変動に関する合意案は、これまでの UNFCCC 交渉合意の中で重要な点が確認され、今後の取組進展を促している。


その中には、例えば Action9 で「1.5 度目標追求の確認」「第 1 回グローバルストックテイク結果を含む COP28 決定事項の歓迎」「再エネ容量 3 倍等を含む緩和努力推進」「2030 年までに森林減少・劣化を止め回復させる取組等の強化を含む自然・生態系の保全・回復」「COP29 での資金に関する新規合同数値目標(NCQG)合意への決意確認」「全温室効果ガス・セクター・分類を含む経済全体をカバーする次期 NDC 提出奨励」「次期 NDC における野心向上のための国際協力強化」「適応ファイナンス大幅拡大のための努力」「損失と損害に対応するための資金供給」「早期警戒システム実装加速化」等が含まれた。


以上の点を、今後、COP 交渉や各国・各セクター等の取組を通じて、進展させる必要があることを改めて確認した点は、重要である。


また、誰一人取り残さないため、若者・子ども、女性等、脆弱な人々/グループの気候変動適応能力・レジリエンスを強化し、水と衛生(WASH)・エネルギー・食料等にアクセスできるよう支援することが必要とされているが、第 4 章若者・将来世代、第 1 章ジェンダー(Action8)・水と衛生(Action6)・エネルギー(Action6)・食料(Action15)等に関する記述等で、補完もされている。



第2章 国際平和と安全(International Peace and Security)


●    国際協力 NGO センター (JANIC) 若林秀樹

●    一般社団法人かたわら  高橋悠太

全体として、国際平和と安全に関する、現下の危機的な状況の共有と、それに対する必要なグローバルアクションの必要性を強く訴える内容になっている。また紛争・暴力の根源的な原因に対応するための持続可能な開発の重要等についても、強化された内容になった。


日本の市民社会が訴えていた核兵器の脅威と使用についても、より強化された内容になった。核兵器使用の威嚇についても懸念が示されたが、表現ぶりは既存の  NPT(核不拡散条約)で合意されたレベルにとどまり核兵器禁止条約には言及しなかった。直近目標は核戦争の危険排除と位置付けられ、核兵器保有国に核軍縮に向けた具体的行動を求めるより、全ての国の問題とされている。これは、核リスク低減措置を重視する核兵器保有国の立場が反映されたと考えられる。核兵器等を廃絶するための具体的な目標設定および道筋については、今後の課題となった。


また、化学兵器や生物兵器の使用を強い言葉で否定したが、オスロ条約で禁止されている殺傷能力の高いクラスター爆弾については、ウクライナ戦争でロシア、ウクライナ双方で使用されているにも関わらず、使用の禁止を求める言及はなかった。


今回、AI や LAWS(自律型致死兵器システム)といった新技術・新興技術の誤用リスクや倫理、また宇宙空間における軍拡競争防止への懸念などに関するグローバルガバナンスの必要性が盛り込まれた。しかし、気候変動の平和維持への潜在的な悪影響および海洋安全保障については締約国間の議論の過程で削除されており、遺憾である。


第 3 章 科学、テクノロジー&イノベーション、デジタル協力  (Science, technology and innovation and digital cooperation)


●    社会的責任向上のための NPO/NGO ネットワーク(NN ネット) 堀江良彰

第5稿ではゼロドラフトと比べ、科学・技術・イノベーションに対する期待と、特に先進国と途上国との間の格差についてより包括的に記載されるようになった。また関連するステークホルダーの一つとして市民社会も明記している点は評価したい。Pact for the Future の附属書のひとつとして、Global Digital Compact(GDC)が策定され、GDC には詳細で包括的なコミットメントが記述されており重要である。


●    「環境・持続社会」研究センター(JACSES)足立治郎

Action29 において、科学・技術・イノベーションが、食料安全保障と栄養、水と衛生、エネルギー、気候、環境などの各分野、貧困と飢餓の撲滅、不平等の是正に貢献するよう記述されたことは重要。


●    SDGs ジャパン 大橋

しかし、知財に関する国際協力の項目が、締約国間の改稿プロセスの交渉の中で消去された背景には政治・経済的な背景も読み取れよう。



第 4 章   ユースと将来世代 (Youth and Future Generations)


●  持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォ ーム(JYPS) 小野日向汰

ユースと将来世代に関する本章は、ゼロドラフトから格段の拡充を経て、Declaration on the Future Generations も附属することとなった。ユースと将来世代を一括りにせず、性・世代内での交差的な多様性を認識したうえで、異なる、また時には重複する権利とニーズを多角的に考慮されたことは評価したい。


平和と安全保障、持続可能な開発、人権に、ユース世代がすでに貢献しているという認識が共有されており、政策立案におけるユース世代特有のニーズと役割を認識する必要性、また国際連合におけるユース世代の関与の代表性、有効性、影響力を高めることが呼びかけられている。また、子ども・ユース・将来世代の「意味ある参画」を、国内・国際レベルで実現していくために、ユース世代へ投資する必要性が盛り込まれた。


将来社会を担う世界中のユース世代が命を守り、身体的・精神的健康を享受できるよう、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成、また経済的不平等の解体と、働きがいのある仕事の拡充とアクセス向上が呼びかけられている。


世代間対話の重要性が挙げられているが、持続的かつ包括的に「意味ある参画」を実現するためには、資金提供に加えて、安全性の保証、情報アクセス保障、日常生活形態への配慮、継続的なセクター横断的な協働や意見交換が必要であると考える。



第 5 章   グローバル・ガバナンス変革  (Transforming global governance)


●    国際協力 NGO センター (JANIC) 若林秀樹

グローバル・ガバナンスの根幹は国連を中心とした多国間協調による取り組みであることが、改稿を経て、全体的により強化された内容になった。国連総会、経済社会理事会の機能強化と共に、ゼロドラフトでは示されなかった安全保障理事会の改革についても、歴史的な不正義の事例としてアフリカが取り上げられ、改革の緊急性、途上国を含む広い代表制、透明性、説明責任、拒否権の是非等が指摘されたことは評価したい。


しかし、国連は締約国政府だけのものではなく、市民社会にも開かれた場にすべきである点については含まれなかった。若者の参画については第 4 章で取り上げられているものの、国境を超え広く市民が国連の方針決定に参画し、一定の影響力が与えられるよう改革すべきである。


●  「環境・持続社会」研究センター(JACSES)足立治郎

宇宙ゴミの問題など、これまであまり目に留まることが少なかったような今後さらに問題化するだろう事項についても取り上げられて議論されていることは非常に重要。将来世代のことを考えれば、SDGs の達成とともに SDGs 採択当初と比べて顕在化してきた新たな状況にどう対応していくか、グローバルガバナンスの再考が求められている。


●   SDGs ジャパン地域ユニット/認定 NPO 法人藤沢市民活動推進機構 五十嵐めぐみ

市民社会や市民社会組織に関する言及が少ないことは、「未来への協定」全体に通底する課題である。特に、国連システムが市民社会や市民社会組織の役割をどのようにとらえ,如何に権威主義が横行するなか,市民社会と市民社会組織の活動するスペースを守り,また,国連が市民社会との連携をどのように強化しようとしているのか,明確なスタンスを示すことができていない。


国際平和と安全保障において、たとえば平和の文化を醸成し、法の支配を堅持し、人間の安全保障を促進していくうえで、市民社会と市民社会組織は決定的に重要な役割を果たすものである。また,先進国はもとより,急速な都市化を経験する途上国においても顕在化してきている市民間の分断や孤独・孤立を克服し,ゆたかなソーシャル・キャピタルを形成し, SDGs にあるような包摂的で持続可能な開発を実現していくためには,市民をつなげる取組への投資が欠かせない。


また、持続可能な開発を推進するために、GDP を超えた指標開発の必要性が明記されたことは特筆に値する。現行の  SDGs  の進捗を確認するグローバル指標について言及しているが,先進的な取組としては,とくに脆弱な人々の生活の状況を多角的に見る「多次元脆弱インデックス」に触れているのみである。しかし,さまざまな国の地域コミュニティにおいて,研究機関や市民社会組織等がグローバルに設定された指標をローカル化するなど,多様な取組がある。これらを国連システムとしてどのように捉え,如何に促進していくのか,そのスタンスをより明確にしてゆくことが期待される。

(了)

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