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共同代表理事メッセージ「ジェンダー平等から始まる「続く未来」」三輪敦子

2020年は1995年の北京女性会議から25年、「北京+25」として様々な活動が予定されていました。ですが、パンデミックと宣言された新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で、「北京+25」最大のイベントだった「ジェンダー平等世代フォーラム(Generation Equality Forum)」も2021年前半に延期されることになりました。

SDGsには「目標5 ジェンダー平等と女性のエンパワメント」がありますが、ジェンダー平等は他のすべての目標と不可分であると明記されています。ジェンダー平等はSDGsの実現になくてはならない横串です。

ジェンダーギャップ指数を持ち出すまでもなく、日本はジェンダー平等に向けた世界の変化から完全に取り残されているという悲しい現実があります。男性を「一家の大黒柱」として高度経済成長を達成した成功体験が「変われない日本」の背景にあるのではと感じることがあります。

元国際通貨基金(IMF)の専務理事で、現在、欧州中央銀行の総裁であるクリスティーヌ・ラガルド氏が「もしリーマン・ブラザーズがリーマン・シスターズだったら」という議論を展開しています。彼女は、女性が経営陣を占めるアイスランドの株式ファンドがリーマン・ショックの影響を免れた事例などを挙げ、リーマン・ショックのような経済危機を繰り返さないために必要な改革には女性のリーダーシップが欠かせないとします。女性の責任感の強さや現実感覚を評価し、さらに、多様な参加者による議論は、無謀な決定に走ることもある集団思考の弊害を回避し、冷静で慎重な意思決定につながると説きます。ジェンダー平等には議論、意思決定、そして社会を変える力があるということです。

2015年に実施された国勢調査に基づく日本の生涯未婚率(調査時に50歳の男女のうち結婚歴がない人の割合)は女性14.1%、男性23.4%でした。一人の男性が両親のケアを引き受ける未来がやってきます。女性も男性も、誰もが安心して、仕事、子育て、介護ができる社会が必要です。出産離職と同様に、介護離職は、個人の生活にも社会にもマイナスです。これは女性の問題ではありません。ジェンダーの問題であり社会の問題です。

新型コロナウィルス感染症の感染拡大を封じ込めるための対策が世界中で続いていますが、非常に興味深い報告があります。この原稿を書いている2020年4月下旬の時点で、感染封じ込めに成功した国の多くは、女性がトップに就いているという事実です。インドを拠点にウェブニュースを配信するYourStoryは、ドイツ、ニュージーランド、台湾、デンマーク、アイスランド、フィンランド、ノルウェー、ベルギーの8カ国を挙げています。CNNやBBCも同様の報道をおこなっています。

台湾の蔡総統は、中国で未知の感染症が発生したというニュースに迅速に対応し、12月末に武漢からのすべての渡航者に検査を導入し、さらに全国規模での検査実施やSNSを活用した厳しい自己隔離政策を取りました。

冷戦下の東ドイツでの経験を踏まえ、「渡航や移動の自由が苦難の末に勝ち取られた権利であるという経験をしてきた私のような人間」からのメッセージとして、しばらくの間、辛抱し、移動の制限と社会的距離を徹底するように呼びかけたドイツのメルケル首相のメッセージに心を打たれた方は多いでしょう。彼女は、「私たちの社会は、一つひとつの命、一人ひとりの人間が重みを持つ共同体」だとし、「私たち全員の努力」「思いやりと理性を持った行動」を呼びかけました。ドイツでは週35万件の検査を実施してきています。

ニュージーランドのアーダーン首相は、買い物に出るのは世帯で一人に限るという厳格な指示を出す一方で、毎日の記者会見では、子どもを含む市民からの様々な質問に直接、答える対話セッションを開催してきました。トレーナー姿で「子どもを寝かしつけたところ」と語り、自宅から配信した動画も話題になっています。ヤコブスドッティル首相が率いるアイスランドは、すべての市民に無料で検査を実施したことにより、人口あたりの感染者数は多いものの、市民は症状に気づかないうちに自己隔離に入ることができました。

共通点として挙げられているのは、テクノロジーを駆使し、思いやりが届くメッセージを発信している点です。また、日々の生活の実態に即した具体的で合理的な対策を迅速に決断し実行に移している点も挙げられるでしょう。厳しい自由の制限を求める措置も含まれていますが、それを実行に移せたのは、市民からの信頼を得た民主的な政府であることが大きいとされています。テレビ会見でのメルケル首相の次のような言葉は印象的です。

開かれた民主主義のもとでは、政治において下される決定の透明性を確保し、説明を尽くすことが必要です。私たちの取組について、できるだけ説得力ある形でその根拠を説明し、発信し、理解してもらえるようにするのです。

「もしリーマン・ブラザーズがリーマン・シスターズだったら」というラガルド氏の主張は、単なる言葉遊びのように理解されてきたきらいもあります。ですが、今回のパンデミックは、ラガルド氏の議論の価値と意義を改めて私たちに教えてくれています。

危機からの教訓をSDGs達成にも活かし、女性と男性、そして全ての人が可能性を閉ざされることのない、安心と安全が保障される、公正で豊かで持続可能な「アフターコロナ」の未来をつくりましょう。今回のパンデミックは、そのために私たちが大切にするべき価値についても、新たな地平を示しています。

一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク共同代表理事

一般財団法人 アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)所長

三輪 敦子


参考:

 

このメッセージは、日経BPが運営する「未来コトハジメ」でメルマガ登録をされた方へ2020年3月28日に配信されたエッセイに加筆修正したものです。

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