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共同代表理事メッセージ「SDGsの根本的な限界と市民活動の重要性」大橋正明

(4月10日)新型コロナウィルス感染症が、世界各地で大流行になっている。今後アフリカや南アジアの都市スラムや難民キャンプに暮らす貧しい人々にこの感染症が広まったら、1980年代前半のアフリカで生じたような大規模な悲劇が再来するかもしれない。そのためにもこの感染症の流行を一刻も早く抑え込み、患者に適切な治療を施し、かつ予防できるようになることが急務だ。そのためには、このウィルスがどこからどのように伝わり、どんな性質をもつのかといった点を科学的に解明し、それらに従って適切な治療法や予防法を早急に開発し、世界中に普及させる必要がある。

人が何らかの病気になった場合、その病気の原因を確定し、伝染病なら感染方法を特定し、適切な治療を行い、効果的な予防体制を確立するといった、予防体制や治療方法を確立させない限り、私たちはその病気から逃れることはできない。

私たちのこの地球は、しばらく前から「持続不可能」とも呼ばれる病気に罹っている。この病気には悪化する貧困や格差、地球温暖化がもたらす気候危機、そのせいで頻発する災害といった厳しい諸症状が現れている。この病気に対応するために、私たちは国連総会が採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」という処方箋を持っている。

しかしSDGsを良く読んで見ると、そこに書かれていることの大半が解熱の様な対症療法でしかないことに気が付く。例えば温暖化を止めることは極めて重要だが、なぜこれほど重篤化するまで、温室効果ガスを誰がどんな理由でどれ位の量を排出し続けた結果、今日に至ってしまったのか?この持続不可能に至った根本的原因と、それに向けた構造的取り組みに、このSDGsはしっかり答えていない。原因がしっかり分からなければ、適切な対応ができないのは常識だ。

こう発言すると、「外交の文書は責任の所在に言及しない」、「それゆえ国連総会で全会一致で成立したのだ」という返答がしばしば返ってくる。多分その通りなのだ。だが、それで良いのか?そんなことで、例えば私たちは新型コロナウィルス感染症に適切に対処できるのか?そんなに簡単に、地球は持続可能になるのか?

どの政府も国益を守る義務があり、グローバル、つまり地球規模な課題に対応するには限界がある。これに対して生活者としての市民は、グローバルな公益を率直に希求して、政府や外交、国際政治の限界を指摘することができる。例えば、新型コロナウィルス感染症の治療や予防法を医学的に確立出来ても、ユニセフが指摘する30億人が自宅で石鹸を使って手を適切に洗えないという貧困・格差の問題も同時に解決しないと、伝染病は抑え込めない。

SDGsには重要な事柄が数多く含まれているが、一方で根本的な限界も抱えている。私たち市民には、このSDGsをそうしたものとして理解した上で、世界中の市民と手を携えて、それを道具として利用して政府の限界に迫ることが求められている。


一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク共同代表理事

聖心女子大学教授、同大学グローバル共生研究所所長

大橋正明


 

このメッセージは日経BPが運営する「未来コトハジメ」でメルマガ登録をされた方へ配信されたエッセイを加筆修正したものです。

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