【SDGs Blog】未来は埋もれた過去の中にある
SDGsジャパン理事である、NPO法人 さっぽろ自由学校「遊」理事・事務局長の小泉 雅弘のエッセイを公開しました。
※本エッセイは3月29日に発行されたメールマガジン「未来コトハジメNEWS」の巻頭コラム「ミラコト・サロン」に寄稿された原稿を加筆修正したものです。
持続可能で公正な社会に向けたSDGs――その目標とともに、注目されるのがバックキャスティングというアプローチです。現状の延長線上に未来を想定するのではなく、望ましい未来のビジョンや目標を設定し、そこから遡って何を変えていくべきかを考えるというバックキャストの考え方は、前例にならって変化を拒む硬直した習慣から私たちの思考を解き放つのに有効だと思います。
もっとも、実際に地域の中で持続可能な開発について考え、模索しようとしたときに、「未来から現在へ」という時間軸だけで物事を考えるのでは不充分と感じるようになりました。むしろ見つめるべきは現在に至る過去にあるのではないかと。
そもそも、「持続可能な開発」という概念が生まれ、広まった背景には、産業振興や経済成長を志向してきたこれまでの開発が、地球環境や人類に持続不可能な状況をもたらしてきたという反省があったはずです。SDGsを掲げた2030アジェンダでは、「誰一人取り残さない」ことが強調されており、脆弱な立場に置かれている人々への言及がくどいほどされています。実際、テクノロジーの発展とともに未来志向で産業化を推し進めてきた開発主義は、地球環境を無残なまでに痛めつけ、世界中で弱い立場にある人々やそのコミュニティを破壊しながら突き進んできました。その結果が、「このままではもはや地球も、人類ももたない」という状況をうみだしてきたわけです。
私が暮らしている北海道は、そうした「開発」の姿がはっきりと見えやすい地域のひとつです。日本という国が近代化の歩みをはじめる以前、この島の大部分は蝦夷地と称され、アイヌ民族の生活圏でした。明治になって、この島は北海道と名づけられると共に日本に組み込まれます。政府の開拓・殖民政策のもと大量の和人移民が流入し、山林原野を切り拓き、農業や漁業を興し、鉱山を開発し、鉄道や道路網を広げ、ダムや発電施設や工場をつくっていきました。
自然が豊かというイメージのある北海道ですが、この150年の間にその姿は大きく変貌しており、この地の自然に依拠してきたアイヌ民族の暮らしと社会は壊滅的な打撃を受け、マイノリティとして強烈な同化圧力に晒される一方で、今も深刻な差別に脅かされています。近年、研究者はこうした北海道のような土地を「入植植民地」と呼んでいますが、元々この地で生活を営んできたアイヌ民族にとって、現在も続いている植民地化(コロナイゼーション)こそが自らの権利を侵害し続けてきたものなのです。
「誰一人取り残さない」と掲げるSDGsと、私たちの社会の脱植民地化という課題は切り離すことができません。先住民族のもつ歴史観では「過去をみつめながら、後ずさりしながら未来に向かう」という話を聞いたことがあります。未来からの声というのは、実のところ、自分たちが暮らす地域の歴史の中に埋もれた声や、いまかき消されがちな小さな声のことなのだと思います。目先の利益に前のめりになるよりも、立ち止まり、後ろを振り返って自分たちが踏みつけてきた地面に残る足跡をみつめてみませんか?
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